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Fri, 13 February 2026

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

英OBR局長が辞任
予算情報漏えいで政界騒然リーヴス財務相の発言も不信感の種をまく

毎年春と秋の2回、英国の財務相は今後の景気対策や税金の方針を発表するイベントの主役となります。現行では秋の「予算」で大規模な政策変更が発表され、春の「財政報告」では経済状況のアップデートが報告されます。財務相の議会演説はテレビ中継され、その内容が翌日の新聞の1面を飾ります。政策の一つひとつが国民の生活に直結し、為替相場や株価が大きく動きます。


さて、11月26日、意気揚々と演説を始めるはずのレイチェル・リーヴス財務相は出鼻をくじかれることになりました。演説終了直後に予算の分析リポートを公開するはずの独立監視機関「予算責任局」(Office for Budget Responsibility=OBR)が、財務相の演説から50分近く前に詳細な分析が読めるようにしてしまったのです。OBR自身が情報漏えいのもとになってその概要が知られてしまうのは前代未聞です。12月1日、OBRのリチャード・ヒューズ局長は引責辞任せざるを得なくなりました。

どのようにして情報漏えいが起きたのでしょう? OBRによると、「身から出たさび」でした。まず、OBRは予定時刻に報告書を公開するために下書き版を作成しました。この段階では関係者以外はアクセスできません。次に予算の内容が分かる重要な情報を含むPDFファイルを、ウェブサイトのメディア・ライブラリに追加したそうです。これは下書きではなく、もしファイル名を知っている人がいれば誰でもアクセスできる状態にありました。このとき、ウェブ開発チームは大きなミスを犯しました。前回、つまり3月の財政報告発表時のOBR文書のファイル名と非常によく似た名称を付けてしまったのです。「March」を「November」に変えただけでした。これに気付いたロイター通信のジャーナリストが報道を開始すると、ほかのジャーナリストたちも情報源を探り当て、あっという間に内容が拡散されていきました。増税の詳細や経済見通しなどが先にリークされ、リーヴス財務相は演説の冒頭でこの失態に「深く失望している」と述べています。せっかくの晴れの舞台が直前になって台無しです。

OBRが設置されたのは2010年です。以前は財務省内で予算案に基づいた経済の見通しを出していましたが、過度に楽観的な見通しとなったり、政治的影響を受けやすかったりなどの欠点があり、ジョージ・オズボーン財務相(当時)の発案で保守党と自由民主党の連立政権発足時から導入されました。政府から独立した立場から今後5年間の国の財政計画の健全性や、GDP成長率などを判断、予測します。OBRは財務相の要請に基づき、経済・財政見通しを年2回作成し、通常は財務相の発表と同時にこれを公表します。OBRの見立ては市場に大きな影響を及ぼし、政府が予算案を変更する場合もあります。OBRの影響が強大すぎると批判する声もありますが、2022年9月、リズ・トラス政権下で当時の財務相が大規模な減税策を入れた「ミニ予算」策定時に、OBRに予測を依頼せず、財政市場に混乱をもたらした後、OBRの監視権限の重要性が改めて注目されるようになりました。2024年10月からは、財務相が評価を委託しなくても、財政的に重要な措置にはOBRによる評価が伴うよう、法改正されています。


情報漏えいに続いて、今度は別の問題が発覚しました。11月初旬、予算発表の前に記者会見を開いたリーヴス財務相は、「これから厳しい予算になる」「増税が必要になる」「国の財政にはあまり余裕がない」と説明したのですが、税金の収入が予想よりもかなり多くなることを伝えていなかったのです。これは国民生活に直結する重要情報です。正しい全体像を知らされないまま、国民は増税や負担増を受け入れさせられたのではないか、という疑念が出てきました。財務省は「誤解を与えたという批判は不公平」と反論しました。リーヴス財務相に辞任を求める声も上がっており、来年も大揺れになりそうな労働党政権です。

キーワード

Office for Budget Responsibility(英国予算責任局)

政府の経済・財政政策を独立して評価する機関。中期的な財政予測、税・社会保障政策の精査、財政リスクの評価などを通じ、政府の予算遂行の透明性と持続可能性を担保。中核となる予算責任委員会の新メンバーは財務相が任命するが、財務特別委員会によって拒否権を行使される可能性がある。

 
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