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Thu, 28 March 2024

第13回 プーチン氏の政敵の末路 - ボリス・ベレゾフスキー氏の死亡

第13回 プーチン氏の政敵の末路 -
ボリス・ベレゾフスキー氏の死亡

プーチン露大統領と敵対し、英国に政治亡命した後もロシア政府の批判を続けたロシアの政商ボリス・ベレゾフスキー氏(67)が3月23日、ロンドン郊外の自宅で死亡しているのが見つかった。地元警察は「他殺の線はない」とみている。借金を苦に首を吊って自殺した可能性が高い。ただ、同氏が25日にイスラエルのホテルに予約を入れていたことから、友人らは「絞殺された疑いが残る」と主張。死因審問で死に至る経過が徹底的に検証される見通しだ。

ベレゾフスキー氏は以前、人気サッカー・クラブ、チェルシーのオーナーとして知られるロシアの大富豪アブラモビッチ氏に石油会社の持ち分30億ポンド(約4270億円)の返還を求めた訴訟で、判事から「もともと信用に値しない証人」と見放されて完敗している。グルジア人大富豪の未亡人やロシアのアルミニウム投資家と裁判で争ったこともあるが、いずれも和解したり、訴えを取り下げたりした。賠償金や弁護士報酬などは合計で1億4000万ポンドともささやかれる。そして最近、ベレゾフスキー氏は、所有する複数の豪邸を売り払い、米美術家アンディ・ウォーホルの版画「赤いレーニン」をオークションにかけるほど、資金繰りに窮していた。

 

車のディーラーだったベレゾフスキー氏は、ソ連崩壊に乗じて民営化された大手石油会社や国際航空会社アエロフロートを始め、銀行、メディアを次々と買収したオリガルヒと呼ばれる新興財閥の一人だ。

エリツィン露大統領の懐に入り込んだベレゾフスキー氏は後継者のプーチン氏にも取り入ろうとしたが、2000年5月に大統領に就任したプーチン氏は、国富をかすめたオリガルヒを一掃し始める。逮捕を恐れたベレゾフスキー氏は英国に亡命。チェチェン軍事介入をめぐるプーチン氏の闇を暴こうとするベレゾフスキー氏は、英国とロシアの間の抜けないトゲになった。歴代駐モスクワ英国大使の中には、「ベレゾフスキーは招かざる客だ」と吐き捨てる人もいる。

2004~08年に駐モスクワ英国大使を務め、ロシアの親プーチン派の青少年組織ナーシに執拗な嫌がらせを受けたアンソニー・ブレントン氏に電話取材をした。

元大使は「ベレゾフスキー氏は巨額の富を失い、精神的に参っていた」と話した。ベレゾフスキー氏が許しを乞う手紙を政敵プーチン氏に送ったというロシア当局の発表については、「亡命者は祖国に戻りたいと望むものだ。本当かもしれない」と分析した。そして、プーチン氏の反発を覚悟の上で、ロシアでは公正な裁判を受けられないベレゾフスキー氏を受け入れた英国の司法制度を誇りに思うと、ブレントン氏は主張した。ベレゾフスキー氏も英国に定着する「司法の独立」に敬意を評したが、最後はその司法から三行半を突き付けられたわけだ。

 

ベレゾフスキー氏は、チェチェン軍事介入の闇を知るロシア連邦保安局(FSB)のアレクサンドル・リトビネンコ元幹部を支援し、公然とプーチン批判を展開。リトビネンコ氏は06年、ロンドンで致死性の放射性物質ポロニウム210を盛られて毒殺されたため、英露関係は冷え切った。今回、巨大スポンサーを失った反プーチン派の勢いが衰えるのは必至だ。トゲがなくなれば英露関係は正常化する。北海油田が底をつきつつある英国にとって、ロシアの石油の重要性は格段に増しているし、ロンドンに拠点を置くロシア人ビジネスマンは貿易や投資の拡大を望んでいる。英国にとって、政商の死は嘆くに値しないばかりか、逆に朗報なのかもしれない。

リトビネンコ氏の未亡人マリーナさんは、ベレゾフスキー氏から最近、「リトビネンコ氏の死因を究明する審問の弁護士費用を支援することができなくなった」と告げられたと報じられた。マリーナさんに連絡を取ってみると、「悲しくて今は何も答えられない」とだけ話してくれた。この春に本格的に始まるリトビネンコ氏の死因審問で「誰が毒殺事件の背後にいたのか明るみに出したい」と意気込んでいただけに、マリーナさんの落胆は察するに余りある。

これまで暗殺の魔手から幾度となく逃れてきたベレゾフスキー氏の没落と死は、リトビネンコ氏の死因審問の行方にも大きな影を落とす。クレムリンでプーチン氏がほくそ笑んでいるに違いない。

 
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