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Thu, 28 March 2024

第16回 分裂する保守 ― 地方選でUKIP が躍進

第16回 分裂する保守 ― 地方選でUKIPが躍進

「来年の欧州議会選では、英国独立党(UKIP)が英国で第一党になるのはほぼ間違いない。独立党が30%前後、労働党が25%程度、政権与党の保守党は20%を下回るだろう。それでも独立党が次の総選挙で議席を得るのは難しい」

2日に行われた統一地方選の結果をどう見るか、大手世論調査会社YouGov会長ピーター・ケルナー氏に尋ねると、こんな答えが返ってきた。労働党支持者のケルナー氏は日曜紙「サンデー・タイムズ」などで30年以上、政治をウォッチしてきたベテラン・ジャーナリスト。奥さんは欧州連合(EU)のキャサリン・アシュトン外交安全保障上級代表だ。

地方選で保守党は335議席、自由民主党が124議席減らす惨敗を喫した。その一方で、独立党は8議席から147議席に大躍進。「道化師」呼ばわりされた独立党のファラージ党首は「我々は英国の政治状況を劇的に変える存在になった」と高笑いした。得票率で見ると、独立党は23%。労働党は29%(前回39%)、保守党は25%(同33%)。労働党のミリバンド党首は、保守党と自由民主党の連立政権に対する不満をすくい上げるのに失敗した。

比例代表制の欧州議会選と異なり、英国の総選挙は伝統的な単純小選挙区制をとる。各選挙区の最多得票者しか当選できないため、独立党がいくら得票を増やしても当選者を出すのは難しい。しかし、独立党が保守党の票を奪うことで、労働党が漁夫の利を得て「ミリバンド首相」が誕生する可能性が強まっている。

 

保守党内ではナイジェル・ローソン元財務相ら重鎮がキャメロン首相に「EU脱退」を訴えた。同首相は2017年にEU残留の是非を問う国民投票の実施を表明しているが、15年に予定される総選挙に向け、前倒し実施を求める動きも出始めた。保守党の草の根支持団体「コンサーバティブホーム」の世論調査では、34%が「総選挙前に独立党と選挙協力を結ぶべきだ」と回答するなど、同党はパニック状態。そこに、ファラージ党首が「欧州議会選後にキャメロン首相が退陣して、新しい保守党党首が選ばれれば選挙協力は可能だ」と揺さぶりをかける。

もともと独立党が誕生したのは、欧州中央銀行(ECB)や単一通貨の創設を定めた1991年のマーストリヒト条約がきっかけだった。92年、英国はヘッジファンドのジョージ・ソロス氏に自国通貨ポンドを売り浴びせられ、ユーロ準備段階の欧州為替相場メカニズム(ERM)からの離脱を余儀なくさせられる。93年、メージャー政権は単一通貨への不参加を確約した上で、英議会での条約批准に臨んだが、歴史的な大量造反にあった。こうした混乱から発足した独立党の党是「EU脱退」は筋金入りである。ファラージ党首も元保守党員だ。

 

今回、地方選で独立党が大躍進した理由の一つに、来年1月からEU加盟国のルーマニアとブルガリアの出稼ぎ労働者が自由に英国で働けるようになることへの有権者の警戒心がある。ユーロ危機で欧州統合の幻想が急速にしぼみ、景気低迷と失業者の増加により欧州全体に排他的な空気が垂れ込める。それに加え、イタリア総選挙でお笑い芸人出身のブロガー、ベッペ・グリッロ氏率いる「五つ星運動」が躍進したのと同じように、独立党の台頭は、欧州の民意を反映しないEUに有権者がうんざりしていることをも物語る。民主主義とは、自分たちの手で統治者を選ぶシステムだ。議会は税金の取り方と使い方を決める権限を国民から負託されている。しかし、現実には自分たちが選んでいない機関が、各国の財政に口を出し、国境管理まで差配している。

EUの権限が拡大するにつれ、自分たちの1票の価値はどんどん軽くなる。国家と国民の命運を自分たちが望んでもいない機関に委ねることはできない。そんな問題意識が根底に横たわっているのだろう。

英国の貿易の5割強がEU向けだ。新興国が台頭しても、英国とEUの一衣帯水の関係に変わりはない。前出のケルナー氏は「キャメロン首相は本心ではEU残留を望んでおり、国民投票は党内不満分子のガス抜き」とみる。しかし、欧州議会選で独立党が英国第一党に踊り出れば、国民投票は「ガス抜き」どころではなくなり、英国とEUの「時限爆弾」になる恐れがある。

 
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