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Fri, 29 March 2024

第18回 父親の涙にも理解を―ハーグ条約加盟

第18回 父親の涙にも理解を― ハーグ条約加盟

国際結婚が破綻し、片方の親が16歳未満の子供を無断で国外に連れ去った場合、子供をいったん元の居住国に戻して、その国の裁判で養育者(監護者)を決めるハーグ条約の実施法が12日、日本の国会で成立した。同条約の締約国は現在、89カ国。主要8カ国(G8)では日本だけが未加盟だったため、欧米から強く加盟を求められていた。

英市民団体「チルドレン・アンド・ファミリーズ・アクロス・ボーダーズ(CFAB)」は英国人男性と離婚した日本人女性が無断で子供を日本に連れ去った事案も取り扱ってきた。最高経営責任者(CEO)のアンディ・エルビン氏は2010年、日本の政府と政治家にハーグ条約への加盟を説得するため日本を訪れたこともある。

「これまでは連れ去られた子供を英国に連れ戻す手段がなく、英国人の親は日本の裁判所に提訴することもできなかった。英国人の多くは日本の家族法を、夫婦間に葛藤が生じたときに連れ去りや面会拒否を促す悪名高き『人さらい憲章』とみなしてきた」と強調するエルビン氏だが、日本のハーグ条約加盟については「とてもうれしい。両親が離婚したとしても、子供には両方の親と建設的な関係を保ちながら育つ権利がある。連れ去りや面会拒否は子供を含めた当事者全員を苦しめる」と語った。

 

日本人と外国人の国際結婚は1970年には年間5000件程度だったが、80年代後半から急増、2005年には年間4万件を超えた。一方、日本国内での日本人と外国人夫婦の離婚は1992年に7716件(離婚全体の4.3%)だったのが、2010年には1万8968件(同7.5%)にまで膨らんだ。

それに伴い、日本人が外国から無断で子供を日本に連れ帰ったり、逆に外国人の親が子供を日本から国外に連れ去ったりする事例が増えている。外国政府から日本政府に対して提起されている子供の連れ去り事案は米国81件、英国39件、カナダ39件、フランス33件となっている(日本外務省調べ)。

2011年、米国のテネシー州では、離婚後に子供を無断で日本に連れ帰った日本人の元妻を相手に米国人男性が損害賠償を求めた裁判で、元妻は610万ドル(約5億7000万円)という巨額の支払いを命じられた。米連邦捜査局(FBI)の最重要指名手配犯リストでは、米国人の元夫に無断で子供を連れて日本に帰国した日本人女性の名前がテロリストと同様に扱われていた。僕の妻は約20年前、ロンドンのパブで、若い英国人男性から「あなたは日本人ですか。別れた妻が日本にいるが、子供に会わせてくれない。子供に会いたくて、会いたくてたまらない。英政府もどうすることもできない」と涙ながらに訴えられたことがある。

 

国際結婚が破綻する理由は、性格の不一致、言葉や生活、文化、習慣の違い、家庭内暴力(DV)などさまざまだ。単独親権制度の日本では、犯罪や禁治産宣告などの問題でもない限り、親権は母親に認められる。英国では離婚後も親権は両方の親にあり、裁判で監護者や面会の条件などを決める仕組みになっている。

男女平等が徹底しているように見える英国でも、家庭裁判所の判断で父親の面会が制限されたり、母親が無断で子供を連れ去ったりする事例は少なくない。離婚した父親の親権強化を訴える市民団体「ファーザーズ・フォー・ジャスティス」のメンバーはバットマンに扮装してバッキンガム宮殿に登ったり、下院でブレア首相(当時)に小麦粉を投げつけたり、過激な活動を続けている。彼らのデスパレートな姿は、子供に会えない父親の苦悩を正直に映し出している。

日本では「外国でのDV被害や生活苦から避難するため、日本への連れ去りは最後の手段として必要」「外国で法的解決を図ることになれば高額な弁護士費用、言葉の壁などで日本人の親が不利益を被る」と反対論が強かった。ハーグ条約加盟後も、DVが明らかであれば裁判所は子供を元の居住国に戻す必要はないとされる。

今後は外国人の親による日本からの連れ去り事案も急増すると予想される。子供には母親だけではなく父親も必要なのと同じように、母親にとっても父親にとっても子供はかけがえのない存在なのだ。何かの事情で離婚に至っても、2人で子供を育てていく姿勢を示すことこそが親の愛情ではないのだろうか。

 
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