Donnerstag, 13 Juni 2013 13:00

ドイツのホームでの生活
現場から その1

北澤みさ子

介護の可能なホームへの入居に際しては、様々なケースがあります。例えば病気、あるいはけがの治療のため病院に入院し、回復した後も1人での生活は難しいと判断され、そのまま一度も家に帰ることなく即ホームへ入居するというパターン。この場合、年齢は30~100代、残念ながら20代の方もいます。

ずっと家で介護してきたけれど、それが何らかの理由で困難となり、24時間体制での専門的な介護が必要となったお父さんやお母さんを、しぶしぶ、またはやっとの思いで入居させるという方もいます。

また、ご自身の判断でホームに入居される方もいらっしゃいますし、入居の形を取らず、病気を回復させる期間として2~3週間のみ、ご家族の休暇旅行中に短期間入居するケースもあります。

ホームに入居された方の精神面の変化として、新しい環境に慣れることに必死になっている入居初期は、感情的にあまり複雑ではありません。それから数週間が経ち、生活に慣れてくると、複雑な想いを抱える方が増えてきます。涙ながらに自分の現状の情けなさを訴える方も多くいらっしゃいますし、諦めたり、怒りを人にぶつけたり、鬱状態になったり、死ぬことばかりを考え、それを第三者に訴えたり……。

老後

何しろ、トイレに行きたくても1人では行けない状態の人もいて、しかもそれを家族ではなく介護士さんにお願いしなければならないものですから、苛立ったり、情けない気持ちになるのも当然です。衣食住という基本的な生活に関わる点について、「いつでも他人を待たなければならない状況」を見るにつけ、私もとても辛い気持ちになります。そしてそれこそが、こうした団体生活の一番辛いところではないかと思っています。

入居3カ月後くらいから、再び精神的に落ち着いてくることが多いようです。何はともあれ、入居者にとって一番嬉しいのは、訪問者がいることだと私は思っています。それは、私と歌など歌っているのとは比べ物にならないほど入居者の心を明るくします。ですから、家族や友達がホームに入居したら、できるだけ訪問してあげてください。

近年、非常に重要な観点と考えられているのが、バイオグラフィー(その人の自分史)に沿った介護が行われているかどうかということです。今や、バイオグラフィーを尊重しない介護は例外的なケースになっているくらい、入居者のこれまでの生活習慣や個々の文化に沿って、施設内で介護を行うことが重要視されているわけです。具体的な例としては、食べ物や衣類の嗜好、住み慣れた環境などをどこまで配慮できるかが問われているわけです。ですから、もしも今後、自分の家族や知人、周囲の方、そしてご自身がホームへ入居する際は、臆することなく積極的に、具体的かつ詳細な当人の好み、希望などを書面にてお伝えください。それが、入居者とホーム、双方の利益になります。

介護施設では、涙あり笑いありの毎日の「生活」が、入居者とホームの職員とで営まれています。友情も生まれます。孤独を好んで満喫している人もいます。そういう意味で、ホームは特別な場所でも何でもありません。良くも悪くも、全く施設外の生活と変わりません。ただし、多くの場合は愛と生と死に関わる真剣な人生の山場であることもまた、間違いありません。

関連ドイツ語
(m)男性名詞、(f)女性名詞、(n)中性名詞
北澤みさ子
国立音楽大学楽理科卒業。1984年渡独。ドイツの療法士養成所で音楽療法士の資格を取得。
2007年より老人施設の社会課に勤務。現在就業のかたわら大学にて、文化教育学を学ぶ。
公益法人DeJaK-友の会賛助会員
最終更新 Montag, 20 Mai 2019 17:20