Hanacell

老後への備え
ドイツで認知症を考える 2

渡辺・レグナー 嘉子

今回からは、991号(2014年12月5日発行号)でお伝えした、欧州初のキャラバン・メイト(認知症についての正しい知識を伝授する、認知症サポーター養成講師)養成講座に参加し、キャラバン・メイトとして認定された方の体験記を2回続けてご紹介します。

「キャラバンメイト養成講習会」に参加して
札谷緑:DeJaK-友の会会員。高校教師を経て1994年に渡独。ドイツの大学でMA取得。日本語講師。共著に『Japanisch, bitte! neu』がある。

おそらく長年ドイツで生活されている多くの方々と同様に、私は自分ではドイツ語も何とか達者になり、ドイツ人の友人も多く、上手く地域に溶け込んで生活している方だと思っています。しかし、やはり日本に一時帰国した際に、日本語で生活し、長年の友人たちと食卓を囲んだりするときの「無防備さ」が、ドイツにいるときの自分にはないことにも、実は気付いています。

また以前、ドイツで独り暮らしをしていた日本人女性が、恐らく認知症になり、対応に困ったドイツ人の親戚からの依頼で、日本の親族に宛てた文書の翻訳をお手伝いしたことがあります。その際、女性がドイツに長く住み、ドイツ社会の中でも不自由を感じずに生活していたことなどを聞きました。その当時は、自分が年老いたときのことまでは考えていなかったので、翻訳のお手伝いにとどまり、その方とも面識がないまま、事務的に関係が終わってしまいました。しかし、老後のドイツでの暮らしが困難になる実情を垣間見て、かなり考えさせられたのは事実です。

その後、子どもが生まれ、その成長が楽しみになると同時に、「世代交代」ということを実感するようになりました。しかし、今回のセミナー参加の一番の動機は、私の母の存在だったと思います。正確には、認知症の母を通して見る、「自分自身と娘たちの将来の姿」であったと思います。

かつてはオールマイティーな存在と思っていた母の現在の姿を思い浮かべながら、もしも私が母の立場だったらどうしてほしいだろう……と、よく考えます。今回の研修を受け、改めて肝に銘じたのは、「認知症は病気だ」ということです。ほかの病気を持つ人には優しく対応できても、認知症の人には「変な人!」といった態度を取ってしまうことがあります。特に「かつての姿」を知る母に対してとなると、腹立たしいような、悲しいような気持ちで、「優しく見守る」ことが難しいのです。声を荒げて非難することはなくても、「また同じことを言っている」と、右から左に適当に聞き流し、ほぼ無視しているような対応しかしなくなっている自分に気付きます。最も悲しくなるのは、母自身が自分がおかしな質問をしたことに気付き、それが私にも分かる瞬間です。いい加減な対応をしている自分に悲しくなりながら、どうして良いか分からないのです。そして、また同じことを繰り返してしまいます。「こんな風にしたくない」と思いながら……。

でも、「こんな風にしてしまう」可能性は、誰にでもあるのです。私の娘たちが将来、今の私と同じように思うかもしれない、そう考えると不安になります。自分が認知症になったとき、身近な社会が認知症を病気として受け入れてくれて、ほかの病気の人に対するように近所の人たちも接してくれたら、生活がしやすくなると思います。そして認知症を支える家族も楽になるはずです。

今回、講習会に参加して、やっとそのことを理解できたと思います。認知症や老後のことを、それまでは自分が知識を得ることを中心に考えていたのですが(それも大事なことですが)、もっと視野を広げて「社会」を変えていくことが、医療に関して「素人」の私たちにもできることだと感じました。素人である私が、医学的な話を医師がするようにはできません。でも、「認知症は病気」「手術で治るものもある」「今は進行を遅らせる薬もある」「認知症の人との接し方」「認知症の人、その家族のために何ができるか」を伝えることはできるのです。

講習会では、ドイツの近隣の国からも参加者があったことに驚きました。そして、今回の講習会は欧州初のキャラバンメイト養成講習会であり、席を共にした方々が各地で最初の「種」となり、活動の中心を担うのだと思うと、自分もその「種」の1つになろうと、やる気が湧いてくるのを感じました。今回得た知識を整理し、自分のものとして深く理解を進めるには、まずは身近で小さな「講習会」を開いてみることだと思っています。そうして、認知症を支える人の輪が徐々に大きく広がっていけば良いと思っています。

最終更新 Montag, 20 Mai 2019 17:16  
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