ドイツで生卵は食べられますか?

1 November 2019 Nr.1109

私はドイツで生卵を食べると、必ずお腹を壊してしまいます。友人の中には大丈夫だという人もいます。日本とドイツの鶏卵では何か違うところがあるのでしょうか?

Point

日独で異なる洗卵・冷蔵への考え方

● 卵殻の表面(on-egg)と卵の中(in-egg)

卵の殻(Eierschale)には無数の「気孔」という穴が開いていて、表面をクチクラ層というフィルム状の保護膜(Schutzschicht)が覆っています。産卵後の約18日間はこの保護膜によって、細菌(Bakterien)が卵の中に入るのを防いでいます。しかし、保護膜は卵の洗浄により失われてしまいます。

卵の構造

卵の構造

● 出荷前に洗卵する日本、しないドイツ

日本の卵は食品衛生法の指導により、洗卵選別包装施設にて殺菌作用のある溶液で洗卵(Eier waschen)してから出荷されます。ドイツでは保護膜を残す目的で、洗卵されずに出荷されます。

● 冷蔵して店頭に並ぶ日本、常温のドイツ

日本では「卵について10℃以下で保存することが望ましい」(食品衛生法の基準)とされています。洗浄によって保護膜が失われているため、冷蔵して細菌の増殖を防ぐのです。一方、ドイツでは細菌の侵入を防ぐ保護膜を残した状態で流通するため、スーパーでも常温で販売されます。

日本とドイツの鶏卵の違い

日本 ドイツ
養鶏舎 ケージが多い ビオが増えている
集卵後の殺菌・洗浄 あり なし
卵殻の保護膜 なし 残っている
細菌侵入のリスク あり なし(少ない)
店頭までの保存温度 冷蔵 室温
生卵での摂取 多くは適 基本は加熱食

卵に細菌は付いているの?

● 卵殻の表面(on-egg)と卵の中(in-egg)

卵の細菌は、①卵の殻の表面に付着している細菌(日本では「on-egg」)と、②卵の内部の黄身(Eigelb、Eidotter)や白身(Eiweiß)に入り込んだ細菌(日本では「in-egg」)を分けて考えます。「on-egg」の細菌は養鶏所や集卵所、流通過程で付着します。「in-egg」の細菌は感染ニワトリの卵管内での感染、また保護膜が壊れた卵に付着した細菌が中に入り込む場合です。

● 養鶏所でのサルモネラ菌

日本の農林水産省の資料(2012年)によると、日本の養鶏所(Hühnerfarm)におけるサルモネラ菌(Salmonella)の保有率は無窓鶏舎で約5割、開放鶏舎で約1割。産卵直後の卵殻からは、ほかにも数種類の細菌が検出されることがあります(1996年の日本食品微生物学会誌)。

● 市販の卵パックのサルモネラ菌

しかし、2007年の農林水産省の調査時に市販の卵5パックがサルモネラ菌に汚染されていたことを除いて、日本国内の市販パックからはサルモネラ菌は検出されていません(日本の食品安全委員会の2010年報告書)。ドイツの卵のサルモネラ菌汚染率は0.41〜0.72%で、大半が卵殻のみへの付着(on-egg)、ごく一部の卵に内部(in-egg)の汚染(0.0〜0.06%)が報告されています(2009年の国立衛生研究所報告より)。

● 要注意はサルモネラ菌とカンピロバクター

ドイツではサルモネラ菌に加え、カンピロバクター(Campylobacter)も卵を介して感染する病原菌として、警鐘が鳴らされています(連邦リスク評価研究所「BfR」の2018年5月報告書 )。また、未洗浄の卵殻(特にビオの鶏卵)には、鶏糞と一緒に雑菌が付着していることもあります。

● 暑い日には1日で増殖

サルモネラ菌(Salmonelle)で汚染されていると、今夏のドイツのような暑い環境下に卵を放置した場合、1日で食中毒(Lebensmittelvergiftung)が起きるレベルまで菌数が増殖します。

卵による下痢を防ぐためのQ&A

● 卵殻に押された刻印と賞味期限

例えば「0-DE-03 xxxx y」の「0」は養鶏所の形態で「ビオ鶏舎」(日本に多い小ケージの養鶏舎は「3」。ただし身動きできない大きさのケージは、動物愛護の観点からEUでは禁止)、「DE」はドイツ、次の2桁数値は集卵した地域名(03はニーダーザクセン州)、4桁の「xxxx」は生産者を示す番号です。賞味期限は卵パック(多くは紙製)の上に「mindestens haltbar bis……(賞味期限は……まで)」とシールが貼られています。

卵殻の刻印の見方

卵殻の刻印の見方

● 卵の新旧の見分け方は?

①最も簡単な方法(Eiertest)は、水の入った大きめのコップ(Wasserglas)に卵を入れて、底に沈めば新鮮な卵、水の中間に留まる状態であれば多くは7日以上経過した卵、頭を出して上に浮けば3週間以上経過した古い卵と理解します。②強い光を背景に卵を透かしながら動かしてみて、いつも黄身が中央に位置していれば新しい卵です。黄身があちこちと動くようであれば古い卵です。③卵をゆっくりと振ってみて、中の動きが感じられれば古い卵です。

● 卵殻にひびが見つかったら?

買った卵にひびが入っていたり、殻が壊れていたら保護膜が破れて中に細菌が入り込んでいる可能性もあるため、廃棄が無難です(雑誌「FOCUS」の2015年8月記事)。生食は絶対に避けましょう。

● 卵を購入したら洗うべき?

一見汚れたように見える場合もあるドイツの卵。保護膜が失われると細菌が卵内に入りやすくなる(医学誌「PLOS One」の2014年報告)ため、一般に卵の洗浄はすすめられていません(雑誌「FOCUS」の2015年8月記事)。洗浄したら早めに調理するか、きちんとした冷蔵保存が大切です。ドイツで生で卵を用いる場合は、殻を割る直前に表面に付着しているかもしれない雑菌を洗い流すように心がけましょう。

● サルモネラ菌は加熱に弱い?

サルモネラ菌は75℃、1分間の加熱で死滅します。サルモネラ菌以外の細菌付着の可能性もあるため、ドイツでは基本的に卵は加熱して食することがすすめられています(雑誌「FOCUS」の2018年9月記事)。

● ゆで卵・半熟卵の保存期間は?

ゆでた時間、保存温度、ゆでた時の卵殻のひびの有無により違ってきます。一般的に冷蔵庫保存した殻付きゆで卵(gekochtes Ei)で3日以内、殻をむいたゆで卵は1日以内、半熟卵(weich gekochtes Ei)は痛みやすいのでその日のうちに食べるのが無難と考えられています。

● ティラミスやマヨネーズは大丈夫?

生の卵黄を用いるティラミス(Tiramisu)と自家製マヨネーズ(Mayonnaise)も生卵と同様の感染リスクを伴います。産卵から日の経っていない新鮮な卵を用い、作った後は冷やしてできるだけ早く食することが大切です(Spiegel誌の2016年記事「Millionen Bakterien auf einem Löffel Tiramis」より)。夏の立食パーティーで長時間置いてあるような場合は要注意です。

● リスクのある人は卵の生食を控える

ドイツの連邦リスク評価研究所(BfR)は、年少者、高齢者、慢性病患者など感染症への抵抗力が弱っている人は卵の生食を控えるべきとしています。

お腹を守るための留意点

• 新鮮なうちに食する
• パックの卵が割れていたら処分する
• 卵を洗うのは調理直前
• 十分な加熱で細菌は死滅
• 雑菌でもお腹を壊すことあり
• 年少者、高齢者、慢性疾患患者は卵の生食は控える
• 夏のティラミス、自家製マヨネーズも要注意
• ドイツのほうが生卵でお腹を壊すリスクが高い