日本との水の違い - ドイツの硬水

15 März 2013 Nr.950

日本と質の違うドイツの水が、健康にどう影響するのか教えてください。

Point
• ドイツの水は、ほとんどの地域で硬水です。
• 硬水にはカルシウムとマグネシウムが多く含まれています。
• 硬水自体が健康に良くないという医学的証拠はありません。
• 皮ふに残ったせっけんカスはかゆみの原因、
 すすぎ過ぎは乾燥肌の原因となります。
• 硬度の高い硬水は、便を緩くする作用があります。
• 硬水はミネラルの補給に役立ちます。

硬水って?

水に含まれるミネラルが多いものを「硬水(hartes Wasser)」、少ないものを「軟水(weiches Wasser)」と区別します。水の硬度は、カルシウムとマグネシウムの量によって定義され、日本の生活用水の8割が軟水であるのに対し、ドイツを含む欧州地域では、ほとんどの水道水が硬水です。

表1. 日本とドイツの水道水の例
水質東京都杉並区デュッセルドルフ
硬度 4.6°dH
(82mg/L)
13.8°dH
(245mg/L)
カルシウム 23 mg/L 81 mg/L
マグネシウム 5 mg/dl 11 mg/dl
ナトリウム 23 mg/L 44 mg/L

(平成24年の東京都水道局と2013年のStadtwerke Düsseldorfの資料より)

どうして硬水ができるの?

欧州の地下水や河川水は、石灰質の豊富な地層を、時間を掛けて流れてくるため、ミネラル成分が水に溶け込んで硬水になります。日本では、川の流れが急で河川も短いことから、水に溶ける成分が少ないとされています。一般に、石灰岩の多い地域では硬水に、花崗岩や片麻岩、玄武岩の多い地域では軟水となります。

水の硬度の表記と分類

水の硬度(Wasserhärte)の表記単位と定義は国によって様々です。ドイツでは、水に含まれるカルシウムとマグネシウムを酸化カルシウムの重量に換算した°dH(Grad deutscher Härte)という単位で表記され、14°dH以上を硬水と定義しています。これはWHOの単位に換算すると約250mg/Lの「超硬水」に当たります。日本はWHOと同様の単位と分類を用い、120mg/L 以上を硬水としています。

水の硬度の分類

(ドイツ基準°dHの値を約17.8倍した換算値がWHOの値)

地域によって異なる水の硬度

ドイツ国内の水道水の硬度は、その水源に影響されます。例えば、デュッセルドルフでは14.5°dH(Stadtwerke Düsseldorf社2010年)、ケルンでは18.7°dH(RheinEnergie社2010年)、ベルリンでは15.4〜24.1°dH(Berliner Wasserbetrieb社2009年)です。硬水の軟水化技術を提供しているAlfiltra社の資料によると、最も水の硬度が高いのはハンブルク近郊のバーレンフェルトの51°dH(周辺の平均は19°dH)、最も低いのはテューリンゲン州のアルテンフェルトで2°dH(周辺の平均は6°dH)です。

硬水は健康に影響しますか?

硬水を長期間飲んでも、特定の病気の増加は見られません(2006年と2009年のWHO報告書「飲料水中に含まれるカルシウムとマグネシウムの健康への影響」より)。

・お腹への影響は?
硬度の高い水をたくさん飲むと、お腹を壊すことがあります。これは腸管内で、硬水に含まれるマグネシウムが水と結合し、腸管から水が吸収されにくくなるためです。

・皮ふや髪への影響は?
硬水自体が皮ふ疾患を引き起こすことはありませんが、洗い流されずに残ったせっけんカスや石灰カスが皮ふの炎症の引き金になることがあります。また、体に残ったせっけんカスを取り除こうと必要以上に洗浄を繰り返すと、皮ふの防御バリアが壊され、皮ふ乾燥症(乾燥肌)になってしまうこともあります。せっけんの使い過ぎに注意し、入浴後は保湿クリームでお肌の手入れをしましょう。

・結石は増えますか?
カルシウムを多く含む硬水を多く飲むことで、胆石や腎結石が増えるという疫学的報告はありません。また、イギリスの研究によると、硬水と唾石症にも関係がないようです。欧州でも腎結石の人には、1日2リットルの水(硬水)を飲むことが勧められています。

・動脈硬化への影響は?
硬水が動脈硬化を促進して、狭心症や心筋梗塞などの心疾患を増やすという医学的な証拠はありません。

 

硬水と日常生活

表2. 軟水と硬水
 軟水硬水
どこ? • 日本(沖縄を除く) • ドイツのほとんど
食事 • クセがなく美味しい
• お米が柔らかく炊き上がる
• お茶の風味がはっきり
• ミネラルの補給になる
• 肉の臭みが和らぐ
• ご飯が硬くなりやすい
健康 • 特に問題なし • 特に問題なし(WHO)
• 硬度が高いほど軟便に
入浴時 • 特に問題なし • せっけんの泡立ちがいまいち
• 洗髪後の髪のバサバサ感
• 残ったせっけんカスが皮ふを刺激
生活用水 • 特に問題なし • 食器洗浄後の白い斑点
• 洗濯物に白い斑点
水道管に対し • 腐食性あり • 石灰成分の沈着

・硬水の味
クセのない日本の軟水に慣れていると、ドイツの水道水に違和感を覚える人もいます。水の硬度によってコーヒーやお茶の味も微妙に異なります。硬水で豆やお米を煮ると硬くなりやすく、肉を煮込む際は硬水に含まれるカルシルムが肉のタンパク質と結合し、アクとして取り除かれるため肉の臭みが少なくなるなど、料理の味付けにも影響します。しかし、飲み水としての硬水が料理に合わないというわけではありません。日本のレストランでも人気があるペリエは、ドイツの水道水の平均硬度をはるかに上回る硬水です(表3)。美味しいドイツのビールも、水の硬度が味に影響を与えています。

表3. 主なミネラルウォーターの硬度
商品名硬度
ボルヴィック(Volvic®) 3.5°dH(62mg/L)
エヴィアン(Evian®) 17.2°dH(306mg/L)
ヴィッテル(Vittel®) 17.8°dH(317mg/L)
ペリエ(Perrier®) 23.3°dH(416mg/L)
ジンツッガー(Sinziger®) 27.3°dH(487mg/L)
ゲロルシュタイナー(Gerolsteiner®) 74°dH(1,312mg/L)
コントレックス(Contrex®) 83°dH(1,475mg/L)

・せっけんの泡立ちが悪い
硬水でせっけんを使うと泡立ちが悪くなります。これは硬水に含まれるカルシウムやマグネシウムが、せっけんの成分と化合するためです。硬度が120-180mg/L(6.7-10.1°dH相当)以上の水になると、日本のアルカリ性せっけんは使いにくくなると言われています。

・せっけんカス
せっけんがカルシウムやマグネシウムなどの金属と反応して凝固し、洗浄力のない「金属せっけん」を作ります。水に溶けにくいため、シャワーで体をすすいでも体表でヌルヌル感が残ったり、髪のゴワゴワ感の原因となります。洗濯物に、せっけんカスの白い斑点が残ったというような経験をした方もいらっしゃるのではないでしょうか。

・食器の白い斑点は何?
しっかり洗ったはずの食器や歯ブラシに、白い斑点が残ることがあります。これはカルシウムやマグネシウムの堆積物で「スケール」または「石灰カス」と呼ばれています。石灰成分は酸性にすると溶けるので、食用酢やレモン汁、スーパーに売っている専用洗剤(Citrone Säure ® など)を薄めた水にしばらく漬けておくと取り除くことができます。

軟水器の効果

軟水器(Wasserfilter)

ドイツでは、スーパーなどで軟水器(Wasserfilter)が売られています。これで、硬水に含まれるカルシウムやマグネシウムの量を減らし、口当たりの良い水に変えることができます。どうしても硬水に慣れることができない場合や、お茶の味にこだわりたい方は、手頃な価格で手に入る軟水器を利用してみるのも良いかもしれません。