食物アレルギーの基礎知識

子どもが卵アレルギーと診断されました。
日常生活で注意すべき点について教えてください。

Point
● 食物に含まれる特定のタンパク質に対する過剰なアレルギー反応です。
● 原因食物で多いのは、鶏卵・牛乳(乳製品)・小麦です。
● じんま疹だけではなく、命に関わることもあります。
● 乳幼児の食物アレルギーの多くは子どもの成長とともに消失します。
● 治療の基本は除去食。さらに誤食の予防が大切です。
● 緊急常備薬はいつも手の届くところに。

食物アレルギーとは

食事により体内に入った食物やそこに含まれるタンパク質が、体の免疫反応によって異物として認識され、身体に不利益な過敏反応を示す病態です。ドイツ語ではNahrungsmittelallergieと呼ばれます。

食物アレルギーの症状

軽い反応から重症例まで様々です。皮ふの痒みやじんま疹が最も多く、口唇のピリピリ感や鼻汁、下痢、嘔気、嘔吐、咳や喘鳴、血圧下降などがみられることも。呼吸困難やショック症状など重篤な状態に陥ることもあります。このうち全身性で重篤なものはアナフィラキシー(Anaphylaxie)と呼ばれています。

食物アレルギーの有病率

日本人の食物アレルギーの有病率は全体で1~2%と推定されています。乳児では約10%、3歳児で約5%、学童以降では1.3~2.6%と、年齢とともに減っていきます。厚生労働科学特別研究事業の平成19年度の報告書によると、わが国では年間5000~6000人がアナフィラキシーショックを起こしています。

食物アレルギーの原因食物

鶏卵・乳製品・小麦が3大アレルゲンです。全年齢でみると、鶏卵が約40%を占めて最も多く、牛乳が約20%、小麦12%と続きます。小児では鶏卵・乳製品が多く、大人では魚、そば、甲殻類(えび)などが増えていきます。

食物アレルギーの種類

即時型アレルギー
原因食物を食べて2時間以内に、じんま疹などのアレルギー反応を起こすタイプです。

食物アレルギーが原因のアトピー性皮膚炎
乳児の食物アレルギーの多くはアトピー性皮膚炎を合併しています。通常の治療で改善傾向がみられないアトピー性皮膚炎の場合、食物アレルギーの可能性も疑ってみましょう。

新生児・乳児のアレルギー性胃腸炎
新生児や乳児が、母乳や人工ミルクに含まれるタンパク成分が原因で、下痢や血便を繰り返します。日本では1995年頃から報告が急増しています。

果物アレルギー
特定の果物を食べることにより、口の中がピリピリむず痒くなる口腔アレルギー症状がみられます。原因となる果物は、リンゴ・サクランボ・モモ・メロン・キウイと様々。果物アレルギーは花粉症と密接な関係があります。

食物依存性運動誘発アナフィラキシー
特定の食物を摂った後に運動することにより発症するアレルギーです。

皮ふからの食物アレルギー

皮ふを介して感作される食物アレルギーもあります。例えば、小麦のタンパク成分の入った石けん(茶のしずく石けん®)で問題となった小麦アレルギーは、使っていた人の顔にじんま疹が現れたり、小麦製品を食べた後の運動でアナフィラキシーを起こしました。

小児の食物アレルギーの耐性獲得

乳児から幼児にかけての食物アレルギーのほとんどは、学童期までにみられなくなります(耐性の獲得)。成長するにつれて消化能力や腸の免疫力が成熟し、アレルギー反応が出なくなるためです。3歳までに食物アレルギーの子どもの約50%、学童期までに80~90%が耐性を獲得します。

主な食物アレルギー

鶏卵アレルギー
乳幼児に最も頻度の高い食物アレルギーです。アナフィラキシーショックを引き起こしたり、アトピー性皮膚炎の原因になることもあります。鶏卵は多くの加工食品に含まれているので、アレルギー物質の食品表示に注意が必要です。

牛乳アレルギー
下痢、嘔吐などの消化器系症状のほか、アナフィラキシーショックやアトピー性皮膚炎の原因となることがあります。ほとんどの牛乳アレルギーは学童期までに耐性が獲得されるため、成人の患者はまれです。

小麦アレルギー
以前は小学生までの子どもに多い食物アレルギーでしたが、最近は大人の患者も増えていることが報告されています。小麦は、パンやケーキ、パスタなど幅広い食材に含まれています。食物依存性運動誘発アナフィラキシーの原因にもなります。

大豆アレルギー
加工食品の原料として広く利用されている大豆のアレルゲンの種類は多く、人によって食べられる食品が異なります。大豆アレルギーでも、醤油は大丈夫であることが多いとされています。

食肉アレルギー
アレルギーは、牛、鶏、豚の順で多くみられます。加熱によって抗原性が低下します。アトピー性皮膚炎の原因や、湿疹の悪化原因となります。美味しいドイツのソーセージやハムでは、つなぎとして使われている牛乳や鶏卵がアレルギーの原因になることもあります。

そばアレルギー
日本人に多くみられます。「吸入アレルゲン」としても作用するため、そば粉やそばを茹でた蒸気を吸ったり、そば殼の枕を使ったりすることでアレルギー症状が起こることがあります(例:そば殼喘息)。

ピーナッツアレルギー
アナフィラキシーショックを起こす代表的な食物です。スナック菓子類のほか、カレーのルーやサンドイッチに用いられていることがあるので、外食の際は注意が必要です。

ゼラチン・アレルギー
果汁をゼラチンで固めたお菓子のグミをはじめ、多くの加工食品、医薬品、化粧品に含まれています。

食物アレルギーの治療

基本は原因食物を食べないなどの食事療法。ポイントは、1)アレルギーの原因を食材として用いない(除去食)、2)調理の工夫で低アレルゲン化させたり、低アレルゲン化食品を利用する、3)除去食により不足する栄養面への配慮をする、4)患児が誤食しないように、原因食物が含まれる料理を放置しない、などです。薬物療法はあくまで補助治療で、誤食による急性反応に対してのみ用いられます。食物アレルギーを治す薬はありません。例えば、抗ヒスタミン薬はじんま疹の緩和に、インタール®などの抗アレルギー薬は食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎の改善に用いられます。

原因食物を口に入れてしまったら、口から吐き出してうがいをします。大量に食べた可能性があるなら、できるだけ吐かせた上で、緊急常備薬の抗ヒスタミン薬やステロイド剤を内服します。じんま疹が全身に拡がる場合や、過去に重篤なアナフィラキシー歴がある場合にはアドレナリン自己注射(エピペン®)を用います。エピペン® の効果時間は限られているので、直ちに医療機関を受診するようにします。

ドイツおよびEUでのアレルギー物質の表示

ドイツでは、食品表示に関してグルテンを含む穀物、甲殻類、卵、魚、ピーナッツ、大豆、牛乳、アーモンド、ハシバミのような殻果、セロリ、ごま種子など17種類の表示が義務付けられています。2014年まで猶予されている欧州連合(EU)の新しい表示規則でも、アレルギー誘発物質は成分リスト中のほかの成分より目立つ活字で示されることになります。

表1. ドイツでの食事と主なアレルゲン
たべものドイツ語鶏卵牛乳小麦
ブレッツェル Brezel     X
ブロート(パン) Brot     X
ケーキ Kuchen X X X
シュトレン Stollen X X X
ビール Bier     X
ソーセージ Wurst     X
レーバーケーゼ Leberkäse   X  
シュヴァインスハクセ Schweinshaxe     X
アイスバイン Eisbein     X
クネーデル Knödeln、Klöse X X  
シュニッツェル Schnitzel X X X

少量でも含まれる可能性のあるものにマーク(X)を入れています。
料理法やバリエーションにより、異なってきます。