子宮頸がん予防ワクチン接種は、どうしたら良い?

日本では、子宮頸がん予防ワクチン(以下、子宮頸がんワクチン)は積極的に行われていないと聞きました。実際、どのような問題があるのでしょうか? また、ドイツの接種状況についても教えてください。

Point

子宮頸がん

● ヒトパピローマ(HPV)ウイルスが関与
子宮がんには、子宮の入り口に発生する子宮頸がん(Zervixkarzinom)と、胎児を育てる子宮体部に発生する子宮体がん(Endometriumkarzinom)があり、子宮頸がんの発生に関わっているのがヒトパピローマウイルス(Humane Papillomviren = HPV)です。

子宮頸部の位置

● HPVとは
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮ふや粘膜に乳頭腫(Papilloma)と呼ばれるイボを作るウイルスで、主に性交渉で感染します。子宮頸がんにはHPV16型と18型が関与します。

● 子宮頸がんの頻度
女性では、乳がんに次いで2番目に多い悪性腫瘍です。日本の子宮頸がん患者については、年間約9800人が発症し、毎年、約2700人が子宮頸がんで亡くなっています(厚生労働省「2011年人口動態統計」)。

● 子宮頸がんの予防ワクチン
子宮頸がん患者の90%以上からHPVが検出されています。HPV感染の多くは無症状のままで、長期化したHPV感染の一部から子宮頸がんが発生すると考えられています。子宮頸がんと関係するHPV16型と18型のHPV感染を予防するワクチンが、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)です。

● ワクチンは2種類
子宮頸がんワクチンには、グラクソ・スミスクライン(GSK)社のサーバリックス(Cervarix®)とMSD社のガーダシル(GARDACIL®)の2種があり、いずれも3回の接種が必要です(1回接種で十分に予防できるという報告もあります)。現時点では120カ国以上で承認され、すでに約1億7000万回分を上回るワクチンが使用されています。

子宮頸がんワクチンの種類

子宮頸がんワクチンの効果

● HPVの持続感染を予防
HPV16型と18型の持続感染を予防し、ほかのHPV型子宮頸がんは予防しないため、子宮頸がん検診は引き続き重要です。

● 細胞の異型性を予防
がんに移行する可能性の高い、正常時には見られない異型性の細胞(Dysplasie)を90%以上予防したと報告されています。

● 子宮頸がんに対する予防効果
実際、子宮頸がんの発症がどの程度抑えられるかについては、まだ明らかになっていません。理由は、ワクチンの効果の検証には10年以上の期間を要するためです。

安全性について

● 日本で相次いだ副反応の報告
日本では、子宮頸がんワクチンの接種が開始されてから2014年3月までに、約890万人が接種を受けています。そのうち2475件の副反応(副作用)の報告が厚生労働省に届けられ、627件は医師により重篤と判断されました。

● ワクチン接種後、半年以上の発症も
副反応と考えられている症状は、ワクチン接種直後だけではなく、半年以上や1〜2年後の報告もあり、以下の症状や病気との関連性が疑われています。

子宮頸がんワクチンの種類

日本における現状

● 厚生労働省の立場
子宮頸がんワクチンは日本では定期接種となっていますが、副反応に関する議論があるため、定期接種にもかかわらず、一時的に積極的な接種勧奨を控えている状態です。

● 日本線維筋痛症学会からの提唱
中枢神経症状も考慮に入れた形で、子宮頸がんワクチンの副反応を「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(Hans症候群)」と提唱し、その診断予備基準を発表しました(東京医科大学、西岡久寿樹医師)。

膀胱炎の主な症状と所見

● 日本産婦人科学会からの声明
日本産婦人科学会は、子宮頸がんワクチンは子宮頸がんの発症を抑えるという立場から、接種勧奨の再開を希望しています。

国際的にみる子宮頸がんワクチンの現状

● ドイツのSTIKOの推奨と欧州の現状
ドイツのロベルト・コッホ研究所のワクチン接種委員会(STIKO)では、現在、9〜14歳の女子への接種を推奨しています。また、欧州連合(EU)諸国29カ国のうち21カ国で、子宮頸がんワクチンの接種が推奨されています。

● 世界保健機関(WHO)の推奨と見解
WHOでは、特に子宮頸がん患者が多い発展途上国でのワクチン接種を積極的に勧めています。副反応に関しては、子宮頸がんワクチンとの関連を示す証拠はないという立場をとっています。

● 米国疾病予防管理センター(CDC)の推奨
11~12歳の女子と男子への子宮頸がんワクチン接種を勧めています(2014年)。この年齢に接種を受けなかった26歳までの女性と21歳までの男性への接種も推奨されています。男子への接種は、尖圭コンジローマの予防のためです。

● アメリカがん協会(ACS)の推奨
11~12歳の女子への子宮頸がんワクチンの接種が勧められています(2014年)。この年齢に接種を受けなかった19歳までの女性にも接種も推奨し、ワクチン接種は9歳から可能としています。男子についての推奨は、特にありません。

副作用の原因について

● 定説はなし
ワクチン接種による神経系統の副反応や、それが日本で特に顕著である理由については分かっていません。

● アルミニウム製説
子宮頸がんワクチンのアジュバント(ワクチンの免疫補強剤)として用いられているアルミニウムが、「神経細胞の炎症を起こし毒性を発揮する」と考えている研究者もいます。

● 抗リン脂質抗体症候群説
アルミニウムなど強力なアジュバントが抗リン脂質抗体を上昇させて、抗リン脂質抗体症候群を起こし、痛みや神経症状を発症させているのではないかという説があります。

● 機能性心身症(心の病)説
本年の厚生労働省の検討部会では、子宮頸がんワクチン接種後の疼痛などに関して、「心の病」の観点からの検討も加えています。心理面に配慮した治療で約7割の患者で症状改善がみられたものの、残り3割の症状は不変だったと報告されています。

● 自然発症の紛れ込み説
問題とされている副反応には、子宮頸がんワクチン接種とは関係のない自然発症が紛れ込んでいる可能性があり、「ワクチン接種後の発生」=「ワクチン接種が原因」とは言えないという主張もあります。