実は身近な睡眠時無呼吸症候群

いびきがうるさく、飲酒後は特に呼吸が一時止まっていることがあるようで、「安心して眠れない」と家族から言われます。どうしたらよいのでしょうか?

Point

睡眠時無呼吸症候群とは?

●どんな病気ですか?
睡眠中に呼吸が弱まったり(低呼吸)、一時的に止まったり(無呼吸)するため、体内への酸素の取り込みが不十分となり、満足な睡眠が得られずに日中の仕事や生活にも影響してくるような状態を、睡眠時無呼吸症候群(Schlafapnoe-Syndrom=SAS)といいます。

睡眠中のいびき(Schnarchen)、呼吸の乱れ、断続的な呼吸停止、息が詰まって突然目覚めるなどの「睡眠中の症状」と、熟睡感の欠如、日中の集中力の低下、疲れた感じ、会議中やテレビ視聴中の居眠り(Einnicken、Einschlafen)といった「昼間の症状」がみられます。

●無呼吸の原因は?
鼻や喉の空気の通り道(上気道)が眠っている間に狭くなったり、ふさがったりすることが原因で起こる「閉塞性睡眠時無呼吸」が大半です。まれに、脳の部位に問題があって呼吸運動が停止してしまう「中枢性睡眠時無呼吸」があります。

睡眠時無呼吸の原因

●リスクのある人
普段からいびきが大きい、首が短い、肥満のため首の周りに脂肪がついている、就寝前の飲酒、扁桃腺(Mandel、Tonsille)の肥大、舌が大きい、鼻中隔の変形による鼻詰まりなどが影響します。睡眠薬(Schlafmittel)は顎部の筋肉を弛緩させるため、リスクのある人が服用すると睡眠時の無呼吸を助長することがあります。

●診断は?
1:7時間の睡眠中に10秒間以上の無呼吸が30回以上、2:無呼吸や低呼吸が1時間に5回以上繰り返され日中の眠気など自覚症状を伴う場合、3:自覚症状がなくとも1時間に15回以上の無呼吸や低呼吸がみらる場合、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。重症度は、睡眠中の10秒間以上の無呼吸や低呼吸の回数(無呼吸・低呼吸指数)が、5〜15未満を軽症、15〜30未満を中等症、30以上を重症と判定します。

●頻度は?
30〜60歳を対象とした米国の調査によると、睡眠時無呼吸症候群の割合は男性全体の4%、女性全体の2%。昼間の症状がなくとも睡眠時に何らかの呼吸障害がみられる人は男性の24%、女性の9%でした(米医学専門誌Expert Rev Respir Med、2008年)。日本には、200〜300万人ほどの患者がいると推測されています。

●いびきの音はどこから?
呼吸により、空気が上気道を通過するときに、粘膜の部分が振動して鳴る抵抗音がいびきの正体です。睡眠時は、喉の筋肉が緩むため音が出やすくなります。仰向けの体位、過労や就寝前の飲酒がいびきを増悪させます。

●家族も不眠に
就寝中の大きないびきや激しい呼吸の乱れ、繰り返される無呼吸は、横で寝ているパートナーにも不安感を与え、本人ばかりか家族の睡眠の質を低下させることも少なくありません。

まずセルフチェックしてみましょう

●日中の眠気が指標
睡眠時無呼吸症候群は、日中の眠気と関係があります。まず日中の眠気の程度を、下記の眠気スコアで評価してみましょう。

眠気スコア(エプワース眠気尺度表)

●睡眠時無呼吸症候群の検査
本人は症状を自覚していないことも多いため、検査を行って症状を正確に把握する必要があります。口と鼻に呼吸センサーを付け、指先には酸素濃度測定器を付けて、自宅で計測できる簡易睡眠検査や、1泊の入院中に睡眠時の換気運動、心電図、脳波、眼球運動など測定するポリソムノグラフィー(PSG)が行われる精密検査があります。

●睡眠時無呼吸症候群に関係する病気や事故

●メタボリック症候群
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者は、高血圧のリスクが健康な人の約2倍、糖尿病は2〜3倍です(循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2008-2009)。SASとメタボリック症候群の合併は、男性で約5割、女性で約3割とかなり高頻度にみられます(米医学専門誌Hypertens Res、2006年)。

●心臓や脳血管の病気
心臓血管障害や脳血管障害を来しやすくなります。狭心症や心筋梗塞のリスクは健康な人の約2〜3倍、不整脈は2〜4倍、脳梗塞・脳出血などの脳血管障害のリスクは約4倍にもなります。

●居眠り運転
SAS患者は、居眠り運転の危険が約5倍も増すと言われています。「睡眠と安全運転に関する調査」によると、SAS患者の約10%が過去5年間に居眠り事故を経験しているという報告があります。(平成18年度警察庁委託調査研究報告書)。

睡眠時無呼吸症候群の居眠り運転の事故率(過去5年間)

睡眠時無呼吸症候群の治療

●日常生活で改善できること
喉周囲の脂肪は上気道を圧迫し、気道を狭くしますので、肥満を解消することが重要です。また、就寝前の飲酒はできるだけ控えましょう。就寝中、仰向けの姿勢をとると舌が後ろ側に沈んで気道を狭くしやすくするため、横向きで寝ることが勧められます。鼻に原因がある人は耳鼻科の治療を受けてください。

●マウスピースの利用
歯科で作ってもらったマウスピース(Mundstück)を装着し、睡眠時の上あごを下あごの前方に固定することによって気道を確保します。軽症の場合に向いています。

●持続気道陽圧呼吸療法(CPAP-Beatmung)
鼻に装着したマスクを通して、ポンプから圧力をかけた空気を送り、気道が狭くなるのを防ぐ治療法です(帝人のスリープメイト ®など)。中等症・重症の場合に向いている治療法です。

●手術による治療
いびきや睡眠時無呼吸の原因が、扁桃腺肥大やアデノイドにある場合は摘出手術を行います。狭くなっている上気道の部分を広げる口蓋垂(こうがいすい)・軟口蓋 (なんこうがい)・咽頭形成術が検討されることもあります。

●怪しいと思ったら医療機関へ
セルフチェックで睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、一度かかりつけ医に相談するか、睡眠時無呼吸を専門とする医療機関を受診しましょう。