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ジャパンダイジェスト
Do. 20. Feb. 2020

米国・イラン戦争の危険とドイツの苦悩

新年早々、中東で新たな戦争の危険が高まっている。1月3日に米国はイランの挑発行為に対する報復として、同国の革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したのだ。

6日、ソレイマニ司令官の葬儀に数十万人が参列。米国とイスラエル国旗が燃やされる場面も6日、ソレイマニ司令官の葬儀に数十万人が参列。米国とイスラエル国旗が燃やされる場面も

「影のナンバー2」を暗殺

ソレイマニ氏は、革命防衛隊のエリート部隊「コッズ部隊」の司令官だが、イランの宗教指導者ハメネイ師の片腕で、同国の「影のナンバー2」と呼ばれた人物だった。ソレイマニ司令官はシリアから飛行機でイラクのバグダッド空港に到着し、迎えの車に乗り込んだ直後に、米軍のドローンによるミサイル攻撃で殺害された。イランはこの暗殺を「国家によるテロ」と強く非難している。

ドイツをはじめとする欧州連合(EU)諸国は米国とイランに対し自制と軍事衝突の回避を求めているが、8日にはイラン軍がイラク国内の米軍基地をミサイルで攻撃するなど、両国が正面衝突する危険は刻一刻と高まっている。

ドイツ・EUは両国に自制を要求

欧州は、米国や日本以上に中東危機の影響を強く受ける。ドイツなどEU諸国は、中東の国々との政治的・経済的な結びつきが強い。それだけに、ドイツとEUの反応は速かった。たとえばドイツのマース外相は、事件の翌日に新聞のインタビューで、「ソレイマニ司令官は中東各地でテロ事件を起こしてきたため、EUのブラックリストにテロリストとして登録されていた」と述べ、まずこの人物が米国だけでなく、EUからも危険視されていた点を強調した。だがマース外相は同時に「ソレイマニ殺害によって、中東情勢全体が不安定になった。緊張緩和の試みが一段と難しくなった」として、米国のソレイマニ暗殺を間接的に批判した。

さらにマース外相は「われわれの政策目標は、3つある。1つ目は、米国とイランの軍事衝突を避けること。2つ目は、イラクの安定を維持すること。3つ目は、この混乱に乗じてテロ組織イスラム国(IS)が勢力を回復するのを防ぐことだ。われわれは国連などを通じて、事態の鎮静化に全力を尽くす」と述べた。ドイツは、イラクに駐留する反IS連合軍に約120人の将兵を派遣し、ISと戦うクルド人民兵に軍事訓練を行っている。

メルケル首相も6日にフランスのマクロン大統領、英国のジョンソン首相とともに共同声明を発表し、事態の鎮静化を求めた。メルケル首相らは声明のなかで、まず「イランが先月以来、イラク国内に駐留する反IS連合軍に対して挑発攻撃を行ってきたことを糾弾する。さらにソレイマニ司令官が率いるコッズ部隊が、中東各地でテロ行為などを起こしてきたことについても、深く憂慮する」として、イラン側の態度にも非があったことを指摘した。

その上で三首脳は、「関係各国に対し自制と戦闘行為の終結を求める。事態をこれ以上エスカレートさせてはならない」として、米国とイランに軍事攻撃を行わないように要求した。そしてメルケル首相らはイランに対し、2015年に英独仏、米国、ロシア、中国と調印した核合意の維持を求めた。

昨年からイランの挑発が激化

なぜ米国は、ソレイマニ司令官殺害という過激な作戦を実行したのか。その背景には、イランによる挑発行為のエスカレートがある。

昨年6月にイラン軍は、ホルムズ海峡上空で米軍のドローンを撃墜した。トランプ大統領は革命防衛隊の施設への攻撃を命令したが、攻撃直前に命令を撤回。その3カ月後にはサウジアラビアの製油施設がドローンによって攻撃され、イランが支援するイエメンの民兵組織フーシ派が「攻撃を実行した」という声明を出した。この時も米国は報復しなかった。

だが先月初めてイランの攻撃により米国人の死者が出たことで、トランプ大統領は態度を硬化させた。米国はイラクに駐留する反IS連合軍の中核である。昨年12月27日に、イランが支援するイラクのシーア派民兵組織「人民動員隊(PMF)」が、イラク北部キルクークの米軍基地K1をロケット弾で攻撃。米国の軍属1人が死亡し、米兵4人とイラク兵2人が重軽傷を負った。米軍が報復として2日後にPMFの施設を空爆して25人を殺害すると、シーア派民兵組織は大晦日に暴徒を動員してバグダッドの米国大使館に放火し、突入を図った。米国の海兵隊員たちは暴徒の侵入をからくも食い止め、大使館が占拠される事態は避けられた。

トランプ大統領は今年11月に大統領選挙を控えているため、イラン危機で弱腰の姿勢を見せることで支持率が下がることを恐れているのだ。

中東の核軍拡競争への懸念

今回の事件について、EUの外交担当者の間では失望感が強い。EU諸国は米国がイランとの核合意からの離脱を表明した後も、イランがこの合意を維持するよう説得に努めてきた。だが暗殺事件によって、核合意は事実上終焉したも同然だ。

EUが最も恐れるのは、今回の事件でイランが核兵器開発に拍車をかけることだ。イランと敵対関係にあるサウジアラビアをはじめ、エジプトやトルコも核兵器の開発を始める可能性がある。欧州の目と鼻の先の中東での核軍拡競争は、EUにとって最悪の事態の1つだ。米国とイランの全面戦争は、両国民の間に死傷者を出すだけではなく、世界の景気にも悪影響を与える。一刻も早く事態が鎮静化されることを祈りたい。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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