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Oliver Was­ser­mann
Mi. 08. Apr. 2020

ハーナウ極右テロと政府の無力

ドイツで極右の暴走がやまない。2月19日夜に、人種差別思想を持つドイツ人がヘッセン州ハーナウで外国人ら10人を射殺した事件は、この国の政府や捜査当局が、極右の無差別テロに対して有効な対抗手段を持っていないことを白日の下に曝した。

2月23日、ハーナウで数千人の人々が参列した犠牲者の葬儀行進2月23日、ハーナウで数千人の人々が参列した犠牲者の葬儀行進

外国人・移民が犠牲に

この日トビアス・R(43歳)は、ハーナウのシーシャ(水たばこ)バー2カ所とキオスクに車で乗り付け、トルコ系ドイツ人、クルド人、ルーマニア人、ボスニア・ヘルツェゴビナ人など9人をピストルで殺害し、5人に重軽傷を負わせた。彼は自宅へ戻ると母親を道連れにして自殺。Rの母親を除くと、殺されたのはすべて外国人か、ドイツ国籍を取った移民だった。

Rは銀行やネット企業を転々とした後、失業して両親とともに自宅に住んでいた。射撃クラブの会員で、合法的にピストルを所有していた。彼は前科もなく、極右団体にも属していなかったことから、捜査当局からは全くマークされていなかった。

Rがインターネット上に公開した映像などによると、彼はトルコ人など中東系の外国人に敵意を抱いており、「中東やアジアの24カ国を完全に殲滅(せんめつ)するべきだ」と述べている。さらに彼は「秘密諜報機関から常に監視されており、私にガールフレンドができないのは監視のためだ」として、検察庁に対してこの諜報機関を告訴していた。このため連邦検察庁は、精神を病んで強迫観念にかられていたRが、インターネットなどで人種差別思想に汚染され、「すべての問題は外国人にある」という確信から凶行に走ったと見ている。

9カ月間で3件の極右テロ

ドイツでは過去9カ月に、極右によるテロが3件も発生。昨年6月にはヘッセン州カッセル区長のリュプケ氏(65歳)が、自宅のテラスで極右団体の元構成員によって射殺された。キリスト教民主同盟(CDU)に属する同氏は、メルケル首相の難民受け入れ政策を支持し、難民救済の重要性を強調したために、ネット上で極右勢力から殺害予告を受けていた。極右テロリストが政治家を殺害したのは、第二次世界大戦後初めて。

また昨年10月には、旧東独のハレで27歳のドイツ人がユダヤ教の礼拝施設(シナゴーグ)に銃と爆発物を持って乱入しようとした。しかし内部から施錠されていた扉を開けることができなかったために、通りがかりのドイツ人女性ら2人を射殺。彼はネット上に公開した映像の中で、シナゴーグで礼拝中のユダヤ人らを殺害することが目的だったと語っている。

2011年にも、旧東独のネオナチによる連続テロが明るみに出た。テューリンゲン州の「国家社会主義地下組織(NSU)」というグループが、2000年からの7年間で、ミュンヘンやハンブルクでトルコ人、ギリシャ人、ドイツ人警察官など10人を殺害していたのだ。

メルケル首相らは犯行を強く糾弾

ドイツの政治家たちは、立て続けに起こる極右テロに茫然としている。メルケル首相は「人種差別主義と憎しみは、社会を侵す毒だ」と述べ、人種差別主義を強く糾弾した。シュタインマイヤー大統領は、テロの当日にハーナウの事件現場に駆け付けた。殺された市民の家族や友人は大統領に対し、「われわれもドイツの市民だ。殺されたのはドイツの市民なのだ」と訴えた。大統領は、「全くその通りだ。われわれは今、団結しなくてはならない。テロによって社会に亀裂を生んではならない」と語り、ドイツ人と移民的背景を持つ市民が結束を強めなくてはならないと強調した。

AfDにも間接的責任?

ドイツでは右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の間接的な責任を問う声が強まっている。AfDは2013年に結党され、2017年の総選挙で第3党となった。AfDの幹部たちは、公共の場やインターネット上で、イスラム教徒や移民を敵対視する発言を繰り返してきた。彼らの言葉の暴力が、一部の極右勢力の暴走につながっているというのだ。同党の下部組織「翼」と青年組織「若い選択肢」は、憲法擁護庁から予備的監視を受けている。

一方、AfDのガウラント院内総務は「今回の事件は精神を病んだ者による犯罪であり、わが党に責任を押しつけるのはお門違いだ。事件をAfD弾圧のために利用するべきではない」と述べ、責任を否定している。だがドイツの政治家やメディア関係者の間では、AfDを右翼政党ではなく極右政党と呼ぶ者が増えているほか、党全体を憲法擁護庁に監視させるべきだという意見も。今後AfDへの風当たりが強まることは確実だ。

一匹狼の犯行は阻止が困難

ゼーホーファー内務大臣は、「極右テロは現在のドイツにとって最大の脅威だ」と述べ、モスクやシナゴーグ周辺、鉄道の駅や空港での警戒態勢を強化する方針を明らかにした。だがハレとハーナウの事件の犯人は、捜査当局のブラックリストに載っていなかった。さらにハレの事件の犯人は、殺傷能力のある武器を自作。こうした「一匹狼」のテロリストによる犯行を、捜査当局が事前にキャッチするのは極めて困難だ。ネット上の「極右ウイルス」に心を汚染される者が減らない限り、外国人を狙ったテロが今後も繰り返される危険がある。ドイツはかつて安全な国と言われたが、21世紀に入って社会のタガが外れ、以前には考えられなかったような犯罪が起きていることは残念だ。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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