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第2波に備えるドイツ科学者は重大な懸念

7月28日に、ドイツの国立感染症研究機関であるロベルト・コッホ研究所(RKI)のヴィーラ―所長が、厳しい表情で記者会見を行った。彼は「ドイツでは再び感染者数が増えている。集団感染は、職場、家族や親戚の間での会食、介護施設で起きている。このため私は、非常に大きな懸念を抱いている」と語った。

7月25日、ケルン・ボン空港で無料のPCR検査の列に並ぶ、危険地域から帰国した人々7月25日、ケルン・ボン空港で無料のPCR検査の列に並ぶ、危険地域から帰国した人々

「国内で規則が守られていないことが主因」

ヴィーラ―所長によると、7月中旬以降に新規感染者数が増加している主な理由は、ドイツに住む人々の間で、感染を防ぐための規則を守らない人が増えていることだ。つまり5月の規制緩和以降、他人と最低1.5メートルの距離を取らなかったり、商店や公共交通機関でマスクを着けない人が増えているという。

彼は「現在の状況が、パンデミックの第2波であるかどうかは、断言できない。しかしわれわれは、最低限の距離やマスク着用の義務を守り、ウイルスが急激に拡散することを防がなくてはならない」と訴えた。

ヴィーラ―所長は欧州で新型コロナウイルスが猛威を振るった3月後半から4月には、毎日記者会見を行っていたが、ロックダウン緩和以降は何週間も会見を行わなかった。メルケル首相のアドバイザーであるウイルス学者が、7月28日に再び会見を行ったこと自体が、事態の悪化を象徴している。

7月下旬以降、新規感染者数が増加傾向

ドイツの1日当たりの新規感染者数 (資料=RKI)ドイツの1日当たりの新規感染者数 (資料=RKI)

RKIの7月28日付けの報告書によると、ドイツの累計感染者数は20万6240人。累計死者数は9122人で、フランスやイタリア、スペインなどに比べるとはるかに少ない。集中治療室(ICU)で人工呼吸器を装着している重症者の数は、126人と低い水準にある。

だがRKIの統計によると、7月下旬になってから、1日当たりの感染者数が500人を超える日が、以前に比べて増えている。ヴィーラー所長は、「感染者数の増加傾向に変化が現れている」と指摘する。

確かにドイツでは、夏に入って新型コロナウイルスのクラスターが時折発見されている。例えば7月25日には、バイエルン州ディンゴルフィング・ランダウ郡の農場で、収穫作業員176人が感染していることが分かり、労働者約500人が隔離された。州政府は連邦軍の応援も受けて、この地区の住民に無料でPCR検査を実施している。またバーデン=ヴュルテンベルク州のシュヴェービッシュ・グミュントでも、7月14日に行われた葬儀に参列したイスラム教徒らの間で、58人の感染が確認された。

リスク国からの帰国者に強制検査

一方、シュパーン連邦保健大臣は、7月27日に「新型コロナウイルスが蔓延している危険国から帰国する人に対しては、空港などでPCR検査を受けることを義務付ける」と発表した。ドイツでは日本と異なり、帰国者に対し強制的に検査を実施することを「市民権の制限」と見なす傾向が強い。このためシュパーン大臣は、当初強制検査には慎重な姿勢を示していた。

だが、多くのドイツ人が夏のバカンスを過ごすトルコ、スペインなどで感染者の数が増える傾向にあることから、シュパーン大臣も方針を変更して、強制検査に踏み切った。特にスペインのカタルーニャ地方では7月に入って感染者数が急増しているため、ドイツ外務省は7月28日に、同地方への観光など不要不急の旅行を見合わせるよう市民に勧告している。

今年3月にドイツで感染者が急増した理由の一つは、イタリアやオーストリアで謝肉祭や復活祭の休暇を過ごした市民の一部が、ウイルスをドイツへ持ち込んだことだった。このため政府は、夏休み後に同様の事態が繰り返されるのを防ごうとしているのだ。

パンデミックは終わっていない

バイエルン州政府は、7月1日以降、市民が希望すれば症状がなくても無料でPCR検査を受けられる態勢を整えた。これもクラスターを早期に発見して、さらなる感染を防ぐための対策の一部である。

ヴィーラ―所長は、記者会見の席上で「われわれは、まだ世界で急速に広がりつつあるパンデミックの只中にいる。パンデミックは、まだ終わっていない」と警告した。ウイルス学者の間では、秋から冬にかけて、第2波が到来するという見方が有力だ。今年3~4月のように感染者数が爆発的に増えた場合、政府は再びロックダウンを施行せざるを得ない。その場合、経済が再び大きな打撃を受け、不況がさらに深刻化する。

こうした事態を防ぐためには、市民は責任感を持って行動すべきだ。萎縮する必要はないが、ワクチンが開発されて投与が始まるまでは、過剰な楽観主義は禁物だと思う。科学者の言葉に、耳を傾けたい。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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