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Sa. 23. Okt. 2021

メルケル首相の後継者最有力はゼーダー氏

来年秋の連邦議会選挙まで、およそ1年。この総選挙にはドイツだけではなく世界各国が注目している。その理由は、2005年以来首相を務めているアンゲラ・メルケル氏が総選挙後に政界を引退する方針を明らかにしているからだ。つまり、来年はメルケル首相の後継者が決まるのである。

バイエルン州旗をモチーフにしたマスクは、ゼーダー氏のトレードマークにバイエルン州旗をモチーフにしたマスクは、ゼーダー氏のトレードマークに

ゼーダー氏への支持率がトップ

そうしたなか、この国の政界では異変が起きている。これまで首相候補として名乗りを上げていたキリスト教民主同盟(CDU)の3人の政治家を差し置いて、バイエルン州のマルクス・ゼーダー首相(53歳)が最も有力なメルケルの後継者と見られているからだ。ゼーダー氏は、CDUの姉妹政党で、バイエルン州の地域政党のキリスト教社会同盟(CSU)の党首である。

シュピーゲル誌が今年6月の最後の週に実施した世論調査によると、メルケル氏の後釜に座るべき人物として、ゼーダー氏を挙げた人の比率は39%で最も多かった。ゼーダー氏は、CDUのフリードリッヒ・メルツ元連邦議会院内総務(14.4%)、ノルベルト・レットゲン連邦議会・外務委員長(5.3%)、ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州のアルミン・ラシェット首相(4.7%)に大きく水をあけている。

メルツ氏ら3人のCDU党員とは対照的に、ゼーダー氏は本稿を執筆している8月12日の時点では「メルケルの後継者として連邦政府の首相を目指す」という出馬表明を行っていない。彼はドイツのメディアでのインタビュー中に、「私の居場所は、バイエルン州だ」という言葉を繰り返している。

ゼーダー氏のコロナ対策への高い評価

ゼーダー氏の人気が急上昇している最大の理由は、彼のコロナ対策だ。同氏は、今年春に欧州で新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時に、感染者の増加を防ぐために積極的な対策を取った。彼はドイツの16の州の首相の中で、感染拡大の防止のために最も積極的な政治家と見られている。

例えばゼーダー氏は、バイエルン州に3月21日に罰則付きの外出禁止・接触制限令(ロックダウン)を施行した。これは、メルケル首相が全国に外出禁止・接触制限令を施行するよりも2日早かった。また、ゼーダー氏の機敏な決断を多くの市民が支持。ある若者はCDUの支持者ではないが、「ゼーダー氏がいち早く外出禁止・接触制限令を施行したのは正しかったと思う」と語っている。

またゼーダー氏は、7月1日以降バイエルン州でPCR検査を希望する市民に対して、症状がない場合にも無料で検査するという仕組みを導入した。このような対策を打ち出したのは、ゼーダー氏が全国で最初である。

さらに彼は、新規感染者数が減少傾向に転じても「ウイルスが消えたわけではないので、商店やレストランの再開はあくまでも段階的に行うべきだ。公共交通機関や商店でのマスク着用義務、1.5メートルの最低距離は維持しなくてはならない」として、ロックダウンの急激な緩和に対しては消極的な姿勢を貫いた。

旗色が悪いラシェットNRW州首相

こうした姿勢が有権者の間で「ゼーダー・ファン」を増やしつつあるのだ。ゼーダー州首相は出馬表明はしていないものの、「コロナ対策で成功した者だけが、次期首相候補を名乗る資格がある」と語っている。この論法で行くと、コロナ対策に関わっていないメルツ氏とレットゲン氏は、首相候補レースでは不利である。

またNRW州のラシェット首相は、ロックダウン緩和に慎重なメルケル首相に反旗を翻して、今年4月という早い時点で経済活動の再開など「出口戦略」を要求した。さらに今年6月に同州のギュータースロー郡の食肉加工場でクラスターが見つかった時のラシェット氏の対応もぎこちなかった。同郡の保健所が食肉加工場で最初の感染者を確認したのは、6月17日。同郡はこの日に学校や託児所を閉鎖した。

だがラシェット氏は当初、「食肉加工場を除けば、感染者の数は多くない」として、直ちに同郡のロックダウンを命じなかった。彼がロックダウンを命じたのは、最初の感染者の発見から6日後。6月23日の時点でギュータースローの直近1週間の新規感染者数は10万人当たり約270人と極めて多くなっていた。ラシェット氏が集団感染の発生後も直ちにロックダウンに踏み切らなかったことは、「コロナ対策に積極的ではない」という印象を与えた。

黒・緑連立政権が誕生か?

来年の連邦議会選挙のシナリオで最も可能性が高いと見られているのが、CDU・CSUと緑の党の連立政権である。公共放送局ARDが8月6日に発表した調査によると、CDU・CSUへの支持率は38%、緑の党は18%なので過半数を確保できる可能性が強い。

2015年の難民危機以降、CDU・CSUへの支持率は下がる一方だったが、コロナ危機からは回復した。イタリアやフランス、スペイン、英国とは対照的に、メルケル政権がパンデミックの第1波で死者数を比較的低い水準に抑えることに成功したからである。

コロナ対策の巧拙は政局に大きな影響を与える。ゼーダー氏も完全無欠ではない。8月中旬には、バイエルン州保健当局で帰国者に対するPCR検査の結果通知が大幅に遅れるなど、混乱が生じている。「ゼーダー首相」が来年本当に誕生するかどうかは未知数だ。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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