Facebookツイッター
ドイツ留学
Fr. 22. Jun. 2018

そのとき時代が変わった - 敗戦からベルリンの崩壊まで

蘇った過去 Holocaust

 
1979年1月22日
公共放送ARDで米国の長編テレビドラマ『Holocaust』が放映され、西ドイツ国民は初めて“自発的”にナチスとユダヤ民族虐殺の過去に眼を向けた。
 

対照的な運命 ── ヴァイス家とドルフ家

4回連続のこのテレビドラマでは、ベルリンのユダヤ人医師ヨーゼフ・ヴァイスとその家族の運命が、患者だった若いドイツ人エリック・ドルフ夫妻の出世と平行して描かれている。ご存知ない方のために、粗筋をご紹介しよう。

第1部(1935~40年)は、医師の長男カール(画家)と“アーリア人”インガの結婚式で始まる。ローレライを歌うヴァイス家はドイツ社会に完璧に同化したユダヤ人だ。一方、妻を診てもらったエリック・ドルフは、法学を修めていても職がない。そのためナチスに入党し、親衛隊(SS)の国家保安本部長官ラインハルト・ハイドリヒに接触、出世街道を歩み始める。38年11月9日、ユダヤ人商店への襲撃事件が発生(水晶の夜)。長男カールはブッヘンヴァルト収容所へ、父ヨーゼフはポーランドへ追放され、母ベアタは次男ルディ、娘アナを連れて義理の娘インガの実家に身を寄せる。やがてルディは自由を求めて出奔、アナは1人で街に出てレイプされ、送られた精神病院で安楽死させられる。

第2部(1940~41年)では、ルディがプラハでユダヤ人女性ヘレナ・スロモヴァに遭遇。一緒に逃れたソ連領域で独ソの開戦に巻き込まれ、キエフ近郊バビ・ヤールでSSによるユダヤ住民大量殺害を目撃する。それを指揮したのはエリック・ドルフ。彼はユダヤ人の撲滅に射殺では効率が悪いと考え、化学者に相談する。

Holocaust
ドイツで『Holocaust』が放映された1979年、
アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の
ガス室の跡地に立つ元収容者の男性
©HORST FAAS/AP/Press Association Images

ユダヤ人問題、最終解決へ

第3部は1942~43年。外部へのプロパガンダ収容所テレジエンシュタットへ移され、嘘の幸福図を描かされているカールと、自ら希望して入所した妻インガが再会。喜びもつかの間、秘密裏に現実を描いたデッサンが外部に漏れた。一方、母ベアタはワルシャワのユダヤ人ゲットーに送られ、医師として働く夫ヨーゼフと再会。しかしそこはアウシュヴィッツへの中継地でしかなかった。43年4月、ゲットー住民が武装蜂起。ゲシュタポ隊長ドルフは上部にチクロンBのガス利用を提案、ユダヤ人問題は最終解決へと進んだ。

そして最終章の1944~45年。カールは妊娠した妻インガを残してアウシュヴィッツへ送られ、父ヨーゼフと母ベアタもアウシュヴィッツへ送られた。次男ルディはパルチザンに合流し、ナチスを撃退していくが、その頃すでに両親はガス室に消え、カールも解放を待たず衰弱死する。戦後、米軍の取調べを前にドルフは隠し持っていた毒薬で自殺。ルディは義姉インガと生まれた甥を訪ね、イスラエル建国に協力するつもりだと語る。

大衆と過去をつないだ「ホロコースト」

以上4本のドラマがARDの番組表に載ったのは、1979年1月22・23・25・26日の夜8時。視聴率は最終章で40%に達し、Holocaustという耳新しいギリシャ語起源の英語は、わずか1週間で子どもから老人までが口にする単語となった。

ドイツ人は46年に政治映画『身近な殺人者』(監督ヴォルフガング・シュタウテ)で社会に潜むナチ戦犯の存在を示され、55年にはドキュメンタリーの秀作『夜と霧』(監督アラン・レネ)で虐殺現場の衝撃的な映像を見せられている。63~65年には収容所の実行犯を裁くアウシュヴィッツ裁判が開かれた。ナチスとその犯罪に関する書物は数知れない。

しかし米国のテレビドラマは、先の映画や裁判、書物では成しえなかった社会現象を引き起こした。大衆の心をつかみ、学校や職場でも「ホロコースト」を話題にさせたのである。

その理由はまず、絵巻物のようなドラマの構成にあるだろう。2つの家族の運命を描くことで、ユダヤ人殲滅(せんめつ)作戦のプロセスと記録に残る重大事件を満遍なく、まるで歴史書をひもとくように追っている。子どもたちはこの作品を通して初めて過去を実感することになった。

また、ホロコーストという外国語がクッションになり、過去に対して距離を置けたことも大きい。Massenmorde (大量殺人)、Judenvernichtung(ユダヤ人絶滅)では高く構えてしまうブロックを、Holocaustという見知らぬ言葉が外したのだ。

その結果、西ドイツ人はこれまで集団虐殺のカテゴリーに隠れていた“個人のドラマ”に感情移入を起こした。悲劇の主人公に自身を投影し、その心情を自分のこととして一喜一憂する。それは悲劇を観ることで成される心の浄化作用(カタルシス)に似ていたのかもしれない。

21 Mai 2010 Nr. 817

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

高橋容子 ドイツニュースダイジェスト創刊時からの常連ライター。日本で文芸映像翻訳を手がけ、渡欧。英・独・豪と移り、現在はスペインのバスク州暮らし。 www.geocities.jp/takahashi_mormann
Japan Airlines HIS ツアー
日本メディカルセンター バナー バナー ドイツからのお引越しはグローバス・リロケーション バナー 習い事&スクールガイド

日本タウン誌・フリーペーパー大賞で英国ニュースダイジェストが受賞いたしました!
ロンドンのゲストハウス