Hanacell

Nr. 6 地方分権の教育行政、メリットとデメリット

日本とドイツでは学校生活の様子がたいぶ違うことを、何回かに渡ってご紹介しましたが、両国を比べると、実は義務教育を取り巻く制度的なあり方そのものにも違いがあります。

まず大きな違いの1つは、ドイツの教育行政が地方分権であることです。例えば、ドイツの小学校は一般的に4年制ですが、州によっては6年制の小学校もあります。バイエルン州では小学1年生から英語を学ぶのに、ノルトライン=ヴェストファーレン州では2年生から授業がスタートします。日本の公立小学校の場合、授業内容も学校組織も全国でそれほど違いはみられませんが、ドイツでは州や自治体によって、カリキュラムや授業時間数など、異なる教育スタイルを持つことができるシステムになっています。

2008年、ミュンスター市で『ドイツ学校賞』を受賞した小学校がありました。この学校には教科や成績表がなく、学習内容まで子ども自身が決めて、自主的に勉強する環境作りが行われています。学校行事も生徒が決める権利を持つなど、公立学校であっても独自のカラーをはっきりと打ち出せるのがドイツの特徴です。


イラスト: © Maki Shimizu

ところでドイツが昔から地方分権型の教育行政をしていたかというと、実はそうではありません。第2次世界大戦中は全体主義が支配していたナチス時代です。当時は統一された国家が理想とされていました。ナチスはドイツを強い国家へと変貌させるために国民を“1つ”にまとめようとしました。政治、教育、メディア、芸術などの活動を規制して、“統一”を盛り込んだ法規を制定し、個人が全体の構成要素の一員として国に貢献することを求めたのでした。ドイツはこの時、法によって教育を含めた人間の精神活動が規制される時代を経験しています。ドイツはナチスが犯した犯罪を今も忘れずにいて、その反省から政治的意図によって統一化や画一化が二度と起らないように注意深く国家システムを構築しているのです。

ドイツは中央集権を嫌っており、決められた知識を画一的に教えることをせず、学校の個性と子ども1 人ひとりを尊重する教育を守っています。ドイツ人はこのことを誇りに思っています。そのため、教育の画一化は避けなければならないと考えているのですが、最近になって地方分権型教育システムに疑問を投げかける声が国内で聞かれているのも事実です。


イラスト: © Maki Shimizu

「北ドイツよりも南ドイツのほうが、1年先に進んだ授業をしているのよ」。そんな話を母親同士でよくしています。

「ミュンヘンにいる従妹は同じ年なのに、私よりも難しい課題をしているんだ」といった会話も、北ドイツに住む子どもたちの間で聞かれます。

日本には学校の偏差値ランキングが当たり前のように存在しますが、ドイツにはそもそも偏差値がありません。大学入試もないので、大学同士の学力レベルの比較にはあまり関心がなかったのです。ところがここ数年、状況が変わり始めています。『学力トップはバイエルン州、ブレーメン州は最低レベル』といった新聞見出しが目立つようになり、州別に学力レベルを比較した結果が公表されています。それに伴い、学習内容の違いが学力差を生み出すとして、国内の教育システムをある程度まで統一しようという傾向が強まってきています。

個性豊かな教育実践をしているドイツですが、今回は日本と異なる教育行政について考えてみました。次回はさらに複雑(!?)なドイツ独自の3分岐型学校制度の仕組みについてお話したいと 思います。

最終更新 Dienstag, 30 August 2011 11:39  
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