Hanacell

Nr. 24 規律を軽視した教育現場で「暴君」と化す子どもたち?!

発言力を重視するドイツの教育現場では、自分の意見を主張できない生徒はどんなにペーパーテストの結果が良くても、高い評価はもらえない。前回も書いたように、これは小学校から高校、大学へと受け継がれているドイツの教育の基礎となる考え方です。ところが現実には、先生の声が聞こえないほどうるさい授業風景が恒常化している場合もあり、しかもそのことを誰も深刻に受け止めていないように見受けられ、不思議に思っていました。だからこそ、保護者会で授業中の騒音が問題になった際、「心配しているのは私だけではないんだ」とホッとしたものです。またある時、学校の先生から次のような話を聞いて、改めてドイツの教育問題を垣間見る思いがしました。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

彼女はいつも学校に笛を持参している40 代の女性で、私たちの家のすぐ近くに住んでいました。近所のパーティーで同席した時、彼女は私にこんな話をしてくれました。10年ほど前に彼女は自分の生徒を40人ほど連れてベルリンのユースホステルに泊まっていました。そのちょうど同じ日に、日本の生徒たち100人ほども同じユースホステルに宿泊していたのです。何気なく日本の子どもたちの方を見ていると、玄関先の広場で日本の先生がピーと笛の合図をしました。すると周辺にいた100人の全生徒がいきなり整列して、あっという間にし~んと静かになる様子を目撃し、大きなショックを受けたそうです。

「すばらしい!!!!」

彼女はそう思って、自分の40人の生徒にも同じことをしてみましたが反応が鈍い。なんとか整列させてみても列は乱れているし、おしゃべりは止まらない。日本の子どもたちは屋外にいても食事の時間も、たった1 回の笛の合図だけで従う態度になるのです。「これが理想の教育の姿なのよ!!」。その光景が今でも彼女の目に焼きついて離れないそうです。彼女は10年経った今でも日本の先生が使っていたものと同じ笛を持ち歩いていて、それを使ってドイツの子どもたちを整列されてみようと、日々奮闘しているのです。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

ところで、ドイツでは数年前に『Warumunsere Kinder Tyrannen werden』という本がベストセラーになりました。「なぜドイツの子どもたちは暴君になってしまうのか」をテーマにした本ですが、このタイトルの通り、ドイツ人の中にも学校教育の現状に危機感を抱いている人が少なからずいるようです。

実は、ドイツでは昔から発言力を重んじる教育をしていたわけではありませんでした。むしろ規律を重視して、学校でも家庭でもしつけが厳しかったようです。今でこそ法律で禁止されていますが、先生による体罰も当然のようにあったと、年配のドイツ人は話してくれます。「今の時代は厳しくするよりも、対話を重視しているのよ」。そう言えば「子どもと犬はドイツ人にしつけさせろ」という言葉を聞いたものですが、現在では残念ながら少し状況が変わっているようです。

さて、ドイツの学校生活を送ってきた私の娘は、日本の学校生活第1日目にこう言いました。「授業中に先生が黒板に書くことを、皆ノートに写しているんだよ。皆がちゃんと椅子に座って授業を受けているんだよ! すごいよね~」。

落ち着いた授業風景に憧れていた娘は、ようやく日本で永住の地を見付けたような心地良さを感じたようです。とは言っても、グローバルな状況に置かれると、かつてドイツの学校で学んだ自己主張能力がしっかり顔を出し、難なく自己アピールをする国際人と変貌するのでした。

最終更新 Donnerstag, 19 April 2012 11:40  
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