Nr. 50 帰国子女としての悩み

Montag, 21 Juli 2014 09:15

今回で50回目を迎える本コラム。スタートしてから4年以上の歳月が経ちました。書き始めた頃は、こんなに長く掲載することになるとは思ってもいなかったというのが正直な気持ちです。当初は娘が日本に帰りたいと言い始めていた時期で、かなり落ち着きのない生活をしていました。「この子はこれから先、一体どうなっちゃうんだろう!?」と心底心配もしていました。でもその反面、日本とドイツを行き来していたせいか、私自身はドイツと日本の子育ての違いを肌で感じられたこともあって、この経験を冷静に受け止め、誰かと共有したいとも思っていました。

現在、このコラムの主人公である私の娘は高校3年生になっていて、将来について思い悩む時期になりました。そうです、やはりドイツへ戻ろうかと日々悩んでいるのです。あれほど日本に帰りたがっていた娘にも、また新たな転換期がやってきました。今回からは、日本に戻って生活を始めた娘の心境について、ご紹介していきたいと思います。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

娘はこれまで、ジレンマに陥ったことが何度かありました。“自分は日本人なんだ”と自覚するのが嫌でも、自己主張が強いドイツ人に囲まれた生活からようやく解放されたというのに、日本に馴染んできたと思えば、周りから「外国人っぽい」と言われてしまうジレンマ。日本語が上手に話せるようになればなるほど、なぜか「ドイツ人だね!」と言われてしまう。娘は一時期、「なんでだろう?」と悩んでいました。しかしそれほど深刻なレベルではなく、むしろ面白がっているような節もありました。おそらく、周りの人が発した言葉には多少の嫌味が含まれていたかもしれませんが、「私は私、あなたはあなた」の世界から来た我が子ですから、他人と違う自分でOKという暗黙の了解があったのかもしれません。この揺るぎない自己肯定は、多くのドイツ人に共通して見られるものです。

外国人っぽいと言われる理由の1つは、まず語学力。英語があまり得意ではない日本の中学生の中にいて、ドイツ語に日本語、さらに英語やフランス語まで分かるというのは、かなり特別でした。けれども娘にしてみれば、「こんなの普通」と無関心。こちらがイラっとするくらい恵まれた語学力に関して無頓着なのです。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

ただ、そんな彼女にも彼女なりの悩みがありました。帰国して日本語に不自由なく生活できるようになっても、ドイツ語の影響でどうしても発音できない言葉があるのです。例えば「じきゅうそう(持久走)」が発音できません。「そう」と「しょう」の違いが難しいらしく、特に“しょう”の発音が、母親が言うのもなんですが、やや不自然。持久走と発音する前に、頭の中にローマ字で「jikyusou」と浮かんで、Sのところで発音できずに舌が止まってしまうそうなのです。私にはまったく実感できない悩みです。“九州”の発音も、アクセントの強さが気になります。信じがたいのですが、日本語はかなり上達しているのに、話すときは今でも頭の中にローマ字が浮かんでいるとか。例えば「こんにちは」と言うときは、「konnichiwa」の文字が、しかも「Guten Tag」も同時に現れるそうです。脳の中は忙しいですね。英語を話しているときはもっと忙しく、英語だけでなく、場合によってはフランス語の「Bonjour(ボンジュール)」も頭の中に響くことがあって、複数の言語が同時に交差しているらしいのです。マルチリンガルの人の頭の中がそれほど忙しなく回転しているとは、本当にご苦労なことです。

最終更新 Montag, 21 Juli 2014 10:23