30 Mai 2008 Nr. 716
ダンス・ダンス・ダンス(上・下)ダンス・ダンス・ダンス(上・下)
村上春樹

講談社文庫
ISBN: 978-4062749046

「ダンス・ダンス・ダンス」は「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」に続く物語。「羊をめぐる冒険」から4年、「ぼく」は、また新たな冒険へと突き動かされる。ドイツ語版タイトルは「Tanz mit dem Schafsman」(DUMONT Literatur und Kunst Verlag)。このタイトルからわかるように、「羊をめぐる冒険」から登場した「羊男」が、この冒険をよりミステリアスなものへと導いていく。

この作品を初めて読んだのは、病院のベットの上。初めての入院、仕事が進まないいらだち、体調不良からくる不安感、そういった要素に、将来への漠然とした不安を掻き立てられていた。「ダンス・ダンス・ダンス」は、そんな私の心情を華麗に捕らえ、さらっていってしまった。正直に言うと、さわやかな冒険物語とは対照的、むしろ、ずるずると出口のない迷路に引きずり込まれるような感じ。「生」と「死」、「現実」と「非現実」の狭間で漂っている「ぼく」。その苦悩、あきらめ、時に流れに身を任せるという気張らなさに、ところがなぜだろう、一種の共感を覚える。決して格好いい主人公じゃない。でも、自分に正直であろうとする「ぼく」。彼の視点から見る世界は、どうしようもなく矛盾に満ちているけれど、「ぼく」はちゃんと「ぼく」の人生を大事にしている。自分の人生の歯車を自分で前へ前へと進め続けている。「踊り」続けている。そこに元気付けられたんだと思う。

村上作品を読むと、読後、少しだけ世界が違って見える気がする。気持ちの良い天気が続き、初夏の香りが漂う季節。自分のための贅沢な時間、村上ワールドにどっぷりと浸かってみてはいかがですか?一つだけ、登場人物の関係性や「ぼく」の成長を追うためにも、やはり先に出ている3作品を読んでから「ダンス・ダンス・ダンス」に入ることをお勧めします。(高)


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