ビオワインの世界 5 Naturland(ナトゥアラント)

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「Naturland」の設立は1982年、本部はミュンヘン近郊のグレーフェルフィンクにあります。

ドイツ国内の会員生産者数は2604、総面積約14万ヘクタール、国外の会員生産者数は約5万、総面積約12万ヘクタールに及びます。ヴッパータールのフェアトレード会社GEPA(第三世界パートナーシップ普及協会)が1986年に発展途上国におけるビオ農業普及のため「Naturland」をパートナーにしたことにより、国外会員が急激に増加しました。ビオ基準に国内外の差はありません。

「Naturland」の活動の特徴は、化学合成農薬、化学肥料、遺伝子組み換え技術の禁止といった農作物・商品基準に加え、2005年に導入された独自の保障基準が定められていることです。人権の尊重、児童労働の禁止にはじまり、発展途上国の原料などを公正な価格で買い取り、相手国の生産者、特に労働者の就労条件を改善するフェアトレードに力を入れています。2010年からはフェア認証も行っています。このような基準は、欧州連合(EU)のビオ規定にはないもので、ほかのビオ団体に先んじて造り手の生活、労働環境も守っていこうとしているのです。また、漁業、養殖漁業、林業、さらには化粧品、テキスタイル産業などにおいても独自の基準を設け、より全体的な環境保護を目指しているのも、「Naturland」ならではです。

「Naturland」がワイン、ゼクト用ぶどうの栽培、醸造の基準を定めたのは、ワイン醸造所会員が集まり始めた1986年頃でした。現在、ドイツ国内の 会員醸造所は35軒で、ぶどう畑の総面積は349ヘクタール、ドイツ以外ではイタリアとオーストリアに計6軒の醸造所があります。「Naturland」は、1990年代にドイツ高品質ワイン生産者連盟(VDP)とパートナー提携を結んでいたことがありましたが、現在は提携関係を解消、団体内に「ワイン専門委員会」を設置しています。

「Naturland」会員も、すべての所有畑において「Naturland」基準で栽培することを義務付けられています。広報担当者いわく、ワイン造りにおいては、セラーの全設備をビオ用と通常用に完全に分離することが困難であるから、というのが主な理由だそうです。つまり、畑の一部だけでEUビオ基準を実践している醸造所のビオワインは、セラーにおいて通常農法のぶどうから造られたワインに含まれている残留農薬に接触する可能性があるのです。

また、同団体もビオラント同様、ぶどう畑の緑化を義務付けています。多種多様な植物がバランス良く育つように、必要であれば種蒔きも行い、益虫が集まってくる環境を整えています。また、品種、土壌の性格を考えた上で適切な収穫量を判断し、ぶどうの樹が健康で長生きできることを目標としています。

「Naturland」基準例 ※カッコ〈〉内はEUビオ基準

● 会員は、所有するすべての畑において「Naturland」基準に従って栽培しなければならない。〈畑の一部でビオの実践が可能〉

● ボルドー液用硫酸銅の上限は年間3kg/haまで。〈年間6kg/ha〉

● ワインに添加する亜硫酸量(一例)は、辛口白・ロゼワインで150mg/L、 辛口赤ワインで100mg/L(いずれも残糖分2g/L以下の場合)。〈同一〉

Naturland: www.naturland.de

 
Weingut Hahnmühle
ハーンミューレ醸造所(ナーエ地方)

リンクスヴァイラー夫妻
リンクスヴァイラー夫妻

ナーエ地方アルゼンツの谷でリンクスヴァイラー家が経営する醸造所。1898年にカール・リンクスヴァイラーが中世からの伝統ある粉挽き小屋「ハーンミューレ」を入手し、醸造所名とした。アルゼンツの谷では1956年の霜害で壊滅的な打撃を受けるまで、ワイン醸造が非常に盛んだったが、現在、その南部地区でワイン造りを続けているのはハーンミューレ醸造所1軒だけだ。現オーナーはカールの曾孫にあたるペーター&マルティナ・リンクスヴァイラー夫妻。1986年に醸造所を継いで以来、ビオ農法を実践。1997年には水力発電装置を導入し、醸造所の電力を自家発電で賄っている。主力ワインは栽培面積の5割を占めるリースリング。とりわけ「Alisencia」はトーン・シーファー土壌のテロワールの個性が生かされた、香り高く、力強いフルーティーさを持つリースリング。誠実なワインの評価は高い。団体の活動内容に共感し、1998年に「Naturland」の会員となった。ビオ団体「ルネサンス・デ・アベラシオン」設立時からのメンバーでもある。

Weingut Hahnmühle
Peter & Martina Linxweiler
67822 Mannweiler-Cölln
Tel. 06362-993099
www.weingut-hahnmuehle.de


2012 Grüner Silvaner
2012 Blauer Silvaner
2012年産 グリューナー・ジルヴァーナー 6.50€
2012年産 ブラウアー・ジルヴァーナー 7.10€

ワインリンクスヴァイラー夫妻はアルゼンツの谷の伝統を活かしたワイン造りに取り組んでいる。その一例が、リースリングと トラミーナのブレンドワイン。「ミッシュザッツ(Mischsatz=混植)」と言って、かつて同一の畑に複数の品種が混植されていた伝統を受け継ぎ、同じ畑に2品種を植えて(ただし垣根式栽培であるため、列単位での混植)同時に収穫し、一緒に醗酵させている。もう1つの例は、ドイツでも非常に珍しいブラウアー・ジルヴァーナー。「アルゼンツのウアレーベ(Urrebe=原種)」とも言われ、グリューナー・ジルヴァーナーよりもやや力強く、スパイシーさが強調された味わい。前菜にグリューナー・ジルヴァーナーを、メインディッシュにブラウアー・ジルヴァーナーを合わせて楽しめそう。