トーマス・ノル

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トーマス・ノル Thomas Noll
バーデン=ヴュルテンベルク州出身。ロシア・サンクトペテルブルグの5つ星ホテル、グランド・ホテル・ヨーロッパの総支配人。©Grand Hotel Europe

ロシア第2の都市サンクトペテルブルグの中心街に、1991年新装オープンしたグランド・ホテル・ヨーロッパに勤めて10年、総支配人に就任して4年になる。世界のVIPが集い、数々の賞に輝く5つ星ホテルだ。昨年12月、公共放送ZDF局から、同ホテル従業員の見習いポストにストリートチルドレンを採用していることが報道され、関心を集めた。

生まれ育ったのはシュヴァーベン地方ドナウ河畔の小村ジグマリンゲン。まずコックの修行からこの道に入り、ホテリエ専門教育を受けてカリブ諸島、マルタ、エジプトの有名ホテルで働いてきた。

サンクトペテルブルグには、貧困やアルコール中毒など様々な事情によって親から見捨てられ、路上暮らしになった子どもたちが1万人以上いる。彼らは孤児院やNPOの保護施設に救いを求める。そこで、ホテリエとして彼らを助けることができないかと考えた。社会に何かを返したい思いもあった。「私が育った人口わずか800人の故郷の村に贅沢はなかったが、私には人生を自ら切り開くチャンスがあった。ストリートチルドレンにもより良い人生への可能性があって良いはず」と。

こうして3年前に室内係に採用された19才のナースチャは、初めてホテルを内側から見て「メルヘンの世界に来たと思った」。生花部のワーリャ、菓子部のジャーナなど、現在ホテルで働きながら学ぶ元路上生活者は10名。当初は採用に不安と不快感を示していたスタッフたちも、今は若く誠実な同僚たちを受け入れ、この試みを誇りに感じているという。