Hanacell

環境奨励金制度が大盛況!新車販売に追い風

金融危機の影響で業績不振にあえぐ自動車メーカーを救うために導入された「環境奨励金制度」が、予想以上の成果を上げている。今年1月中旬のスタートからわずか2カ月強で、申請件数が予算枠の6割を超えるほどの盛況ぶりに、連邦政府は当初の予定を急きょ変更、制度の大幅拡大を決定した。7月からは、二酸化炭素排出量が課税基準に加味される新自動車税制度もスタートする。

金融危機の影響

自動車の販売台数は、世界各国で昨年10月頃から急激に落ち込んでいる。ドイツも例外ではなく、翌11月には乗用車新規登録台数が前年同月比17.7%減の23万3772台となり、米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下のオペル、BMW、ダイムラー、ポルシェ、フォルクスワーゲン(VW)などの各自動車メーカーや、ボッシュ、コンチネンタルなどの自動車部品メーカーは相次いで減産や人員削減を発表した。

自動車産業はドイツ経済を支える主幹産業であるだけに、政府は迅速に対応に回り、雇用確保と景気刺激、さらに環境対策をも盛り込んだ「環境奨励金(Umweltprämie)」の支給を決めた。

奨励金の反響

環境奨励金制度は今年1月14日~12月31日の間に、温室効果ガス排出量の基準値が「ユーロ4(→用語解説)」以上の新車を購入、登録した人に補助金として1台当たり2500ユーロを支払うというもの。登録後9年以上が経過した古い車を廃棄した上での新車購入が条件となっており、「廃車ボーナス(Abwrackprämie)」とも呼ばれている。

当初、同制度に政府が用意した予算は15億ユーロ(60万台分)だった。しかし、申し込み件数は3月27日の時点ですでに37万9000件超。同30日からは、制度利用希望者がボーナスを確保できるよう新車登録前の予約申請が可能になり、それまで以上に申込者が殺到する事態となった。

「まもなく終了」という勢いに政府は4月8日、予算枠を15億ユーロから50億ユーロに引き上げることを決定した。60万台分から200万台分へ、3倍強の大幅な拡大だ。利用期間は当初の予定通り、今年中。予算枠を使い果たし次第終了となり、さらなる拡大はないとしている。

自動車業界が好転

同制度のおかげで新車の需要が増え、国内の自動車メーカーも時短労働などを取り止めて徐々に通常通りの生産体制に戻ってきた。3月の国内における乗用車の新規登録台数はなんと、前年同月比40%増の40万1000台。小型車を中心に、今度は生産が追いつかないという状態になっている。

しかし、国内の需要は急上昇しているものの、国外での売り上げは相変わらず低迷している。同月におけるドイツ・メーカーの国内注文台数が75%増だった一方、輸出台数は25%減。廃車ボーナス制度がいかに功を奏しているかは、この数字が物語っている。

さらなる需要拡大が鍵に

ドイツでは廃車ボーナス制度のほかにも、7月からはエンジンの大きさだけでなく、二酸化炭素排出量にも基づいて課税する新たな自動車税制度が導入されることになっている。また、同制度導入前の6月30日までに新車を購入した人には、最高2年間自動車税が免除されることにもなっており、これらの相乗効果でさらなる売り上げ増加が期待されている。

同時に専門家の間では、環境奨励金制度の効果は一時的なものとする意見も多い。景気後退は来年も続く見通しで、制度終了後のリバウンドが懸念されているのだ。自動車業界が今直面している危機を乗り越えられるかどうかは、需要拡大をどれだけ持続できるかにかかっている。さらに、自動車業界だけを特別扱いしたこれらの政策に対する非難も強まってきている。今後は、経済界すべてを見回した上での景気刺激対策が必要になってくるだろう。

上半期には原油価格が高騰、下半期には金融危機が襲った昨年は、1年を通して大型車より小・中型車が好まれた。ドイツを代表する“ 国民車”メーカーのフォルクスワーゲン(VW)と、高級車メーカーのBMW は、こうして明暗を分けた。

欧州最大手のVW(本社ヴォルフスブルク)は、豊富なモデルと中国市場での販売増などで、金融危機を吹き飛ばした。2008年の決算では、売上高、純利益、新車販売台数のいずれも過去最高を記録。今年3月の国内新車登録台数も、前年同月比36%増と好調だ。

フォルクスワーゲン(VW) 2008年12月期決算
売上高 1138億800万ユーロ 前期比 +4.5%
純利益 46億8800万ユーロ 前期比 +13.7%
販売台数 627万1724台 前期比 +1.3%
従業員数 36万9928人 前期比 +12.3%

Quelle: VW(www.volkswagenag.com

一方、BMW(本社ミュンヘン)は、米国市場を中心に販売台数が極端に落ち込み、2008年の純利益は前年比約90%減。9000人の人員削減に追い込まれた。今年3月の国内新車登録台数は1.1%減で、相変わらず低迷が続いている。BMWのほか、メルセデス・ベンツのダイムラーも「暗」となった。

BMW 2008年12月期決算
売上高 531億9700万ユーロ 前期比 -5.0%
純利益 3億3000万ユーロ 前期比 -89.5%
販売台数 143万5876台 前期比 -4.3%
従業員数 10万41人 前期比 -7%

Quelle: BMW(www.bmwgroup.com

ドイツにおける3月の新車登録、車種別トップ10
車種(メーカー) 登録台数
第1位 ゴルフ(フォルクスワーゲン) 2万3703台
第2位 ポロ(フォルクスワーゲン) 1万7577台
第3位 ファビア(シュコダ) 1万5453台
第4位 パンダ(フィアット) 1万2457台
第5位 コルサ(オペル) 1万2035台
第6位 フィエスタ(フォード) 1万255台
第7位 プント(フィアット) 9764台
第8位 パサート(フォルクスワーゲン) 8799台
第9位 アストラ(オペル) 8423台
第10位 Cクラス (メルセデス・ベンツ) 8270台

Quelle: 連邦自動車局(Kraftfahrt-Bundesamt=KBA)

不況時に売れるのは、高級車より燃費が良い小型車。廃車ボーナス制度の恩恵を最も受けているメーカーはVWで、3月の新車登録台数は合計7万2144台とダントツの1位だった。ドイツ政府に救済を求めているオペルも、3万3758台とVWに次ぐ販売台数を記録している。

用語解説

ユーロ 4(Euro 4)

「ユーロ」は一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、炭素水素(HC)、粒子物質(PM)の排出ガス量を規制する欧州統一の基準で、現在の新車基準は「4」。今年9月からは、「5」にシフトする予定。すでに「6」対応車も販売されている。政府は廃車ボーナス制度のほかに、新自動車税制度に合わせ、6月までに新車を購入した人には1年間、購入した新車が「ユーロ5・6」対応車の場合はさらに1年間、自動車税を免除すると決定した。

<参考文献>
■ 連邦経済技術省経済輸出管理局(BAFA)
*環境報奨金制度申請(予約)は、同ホームページから
■ 自動車産業連盟(VDA)
■ 連邦政府 „Teurer für Stinker: die neue Kfz-Steuer”
■ Die Welt 紙 „Bis Dezember kann abgewrackt werden“(09.04.2009) ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Mittwoch, 05 Juni 2019 11:27  
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


Nippon Express ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド バナー

デザイン制作
ウェブ制作

ドイツ便利帳サーチ!

詳細検索:
都市
カテゴリ選択