“税金大国”ドイツの不公平

Mittwoch, 24 Juni 2009 10:00

経済協力開発機構(OECD)の調査で、ドイツは賃金に対する租税が最も高い国の1つであることがわかった。さらに、子どもの有無に関わらず、低・中所得者および共働き夫婦への負担が大きく、高所得者や片方のみが働く夫婦の税負担が比較的軽いという“不公平”が生じている。今回は、賃金の約半分が租税として徴収されるドイツの税制について見ていこう。

低所得者の税負担大

OECDの調査は30カ国を対象に、雇用コスト(総賃金および雇用主が負担する社会保険料の総額)のうち、租税(給与所得税および社会保険料)が占める割合を推計、比較したもの。これによると、ドイツの平均的な独身労働者(子どもなし)の税負担は賃金の52%で、ベルギー、ハンガリーに次いで3番目に重い(→枠外記事参照)。また低所得者(平均収入の67%)の場合は47.3%で、ベルギーに次ぎ2番目に大きかった。なお、ドイツの平均年収(フルタイム)は4万3942ユーロ(2008年)。

一方、高所得者(平均収入の167%)の税負担率は、ベルギー、ハンガリー、フランスに続く4位で52.6%。依然税負担が高い国の1つではあるが、平均的な賃金労働者の負担とあまり変わらない状態となっている。

社会保険制度のからくり

ドイツで高所得者の税負担が比較的軽いのは、収入がある一定額を超えると、超えた分に対する社会保険料(→用語説明)が免除されるため。つまり、賃金の53.7%が差し引かれる年収6万3000ユーロ(独身、子どもなし)を頂点に、収入が増えるほど税負担率が低くなる仕組みになっているのだ。例えば、年収7万5000ユーロの場合は52.6%、年収11万ユーロに至っては50%と、年収3万6500ユーロの場合と同水準にまで下がることになる。

社会保険制度はもともと、民間保険会社の保険料が高すぎて加入が難しいという労働者を保障する目的で導入されたもので、高所得者を考慮したものではない。しかしOECDによると、ドイツのように所得が増えれば増えるほど税負担が軽くなる制度をとっている国は、オーストリアとスペインを除いてほかに見られないという。

共働き夫婦の負担も大

また、共働きの夫婦と片方のみが働いている夫婦が負担する税の格差も、非常に大きいことがわかった。平均的な収入の夫婦(子ども2人)で、どちらか一方のみが働いている場合の税負担は所得の36.4%。これはOECDの国際比較で10位と比較的低い数字だった。しかし夫婦が共に働いた場合は45.2%にも上り、ベルギー以外にこれほど負担が大きい国はない。

具体例を挙げると、夫が4万4000ユーロ、妻が1万4500ユーロを稼いでいる場合(つまり夫婦合わせて5万8500ユーロ)は、合計41.4%が租税として引かれるが、夫のみが働いて同額の5万8500ユーロを得ている場合の負担率は、わずか38.9%になる。

これも社会保険制度の関係で、2カ所から収入がある場合は、どちらか一方の賃金に高い保険料が課されるため。フォン・デア・ライエン家庭相は、保育所の増設や手取り収入の67%を支給する両親手当の導入など、働く母親の支援にあたっているが、これでは共働きの魅力が大幅に軽減されてしまう状態となっている。

税制改正のススメ

OECDはこれらドイツの“不公平”な税制を指摘し、特に低・中所得者にとって大きな負担となっている社会保険料を引き下げるなど、税制を改革するよう提案している。福祉大国とされる北欧諸国では社会保険料をほぼすべて税金でまかなっており、所得に対する租税負担はドイツよりも低い。

ドイツも北欧諸国に倣おうとすると今後、増税が必要になってくるだろう。しかし現在はむしろ、金融・経済危機を乗り越える対策として、減税が最大のテーマになっている。9月には総選挙を控えており、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)は減税を公約として掲げ、国民の支持を得ようとしているのだ。しかし対する社会民主党(SPD)は、減税により少なくなる税収入を、どうやって工面すれば良いかが問題だとして、これに反対している。実際、各種の景気回復対策で過去最大の債務を抱えることになったドイツに、これ以上の余裕はない。とはいえSPDも、減税の必要性を認めざるを得ない状態なのだ。「景気後退の時期だからこそ、国民の負担を軽くさせたい。でも、どうやって──」。総選挙を前に、税制改革をめぐる議論が白熱している。


OECDが発表した2008年の租税年間で、賃金に対する租税に各国で大きな違いがあることが明らかになった。下の表は、平均的な収入を得る労働者が、雇用コストから引かれる租税の占める割合(%)を示したもの。

独身者(子どもなし) 既婚者(子ども2人)
ベルギー 56 ハンガリー 43.9
ハンガリー 54.1 ギリシャ 42.7
ドイツ 52 フランス 42.1
フランス 49.3 ベルギー 40.8
オーストリア 48.8 スウェーデン 38.9
イタリア 46.5 トルコ 38.5
オランダ 45 オーストリア 38.4
スウェーデン 44.6 オランダ 38.0
フィンランド 43.5 フィンランド 38.0
チェコ 43.4 ドイツ 36.4
ギリシャ 42.4 イタリア 36.0
デンマーク 41.2 ポーランド 33.7
トルコ 39.7 スペイン 31.8
ポーランド 39.7 ノルウェー 30.9
スロバキア 38.9 デンマーク 29.5
スペイン 37.8 OECD平均 27.3
ノルウェー 37.7 ポルトガル 27.2
ポルトガル 37.6 英国 26.9
OECD平均 37.4 スロバキア 25.4
ルクセンブルク 35.9 日本 24
英国 32.8 チェコ 20.6
カナダ 31.3 カナダ 20.2
米国 30.1 韓国 18.1
日本 29.5 米国 17.7
スイス 29.5 スイス 16.7
アイスランド 28.3 メキシコ 15.1
オーストラリア 26.9 オーストラリア 14.9
アイルランド 22.9 ルクセンブルク 12.8
ニュージーランド 21.2 アイスランド 10.4
韓国 20.3 アイルランド 5.5
メキシコ 15.1 ニュージーランド 3.5

夫婦一方のみに収入がある場合)
Quelle: OECD's annual Taxing Wages 2008

用語解説

社会保険
Sozialversicherung

病気や失業など、困難な状態に陥った場合に各個人の生活を保障するもので、すべての労働者に加入が義務づけられている。保険料は賃金に応じて徴収され、労使双方で負担する。失業保険(2.8%)、健康保険(15.5%)、介護保険(1.95%ほか)、年金保険(19.9%)、労災保険(雇用者が全額負担)の5種。社会保険料算定制限があり、一定額を超えた賃金分には課されない。

<参考文献>
■ OECD „Steuern- und Sozialabgaben konzentrieren sich in Deutschland bei Gering- und Durchschnittsverdienern” ほか
■ Die Welt „OECD: Deutschland bei Steuern und Abgaben traurige Spitze“ (13.5.2009) „CDU kündigt Steuersenkung für Wahlprogramm an“
■ 連邦財務省 (www.bundesfinanzministerium.de)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Mittwoch, 05 Juni 2019 11:11