“脱” 脱原発で議論

30 April 2010 Nr. 814
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脱原発を進めているドイツで現在、原子力発電所の稼働期間延長が検討されている。2022年に完全廃止となる予定だった原発は、2050年まで稼働し続けることになるのか。安全性の問題から脱原発を決めた社会民主党(SPD)や緑の党は、「無責任な行動」と非難している。今回は原子力発電の長所と短所を照らし合わせながら、今後の課題について見ていこう。

原発廃止への動き

原子力による発電は、低価格で供給の安定性に優れている上、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから環境に優しいというメリットがあり、ドイツでも重要なエネルギー源となっている。国内では現在、12カ所で全17基が稼働。全電力量の22.6%を占める合計約2150万キロワット(kW)を出力している。

一方で、1986年に起こったソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故などからもわかるように、事故が起きた場合のリスクが非常に高いという大きなデメリットがある。2001年の米同時多発テロ以降は、原子力発電所がテロの標的になる可能性も否めない状態だ。このような中、2002年に当時のSPDと緑の党による連立政権が、脱原発(→用語説明)を決定。発電所の運転期間を32年とし、2022年までにすべての原発の運転を終了するとした。

一転、原発推進へ

ところが昨年10月、連邦議会選の結果SPDが野党にまわり、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)の連立政権が発足して以来、原発の稼働期間延長を求める声が高まっている。SPDと緑の党は、脱原発で不足することになる電力を再生可能エネルギーで代替しようと、風力発電の拡大などを進めてきているが、現在のところ、原発のように低価格で十分な電力を供給できるほどには至っていない。また、そういう状態で原発を廃止すれば、電気代は上昇、連動して生産コストもかさむため、商品の値上がりにつながり、国民の負担が大幅に増えることになってしまう。

原発推進派はこのことから、代替エネルギーが確保できるまで、原発の稼働期間を最高28年延長し、合計60年にしようと検討しているのだ。

ドイツの“脱”脱原発の流れはしかし、異例のことではない。世界各国でもチェルノブイリ原発事故以来、脱原発が進められていたが、現在は地球温暖化問題などの観点から、原発の価値が見直されてきている。欧州連合(EU)でもフィンランドが原発増設を決めたのを皮切りに、フランスや英国、イタリアなどでも同様の動きが見られる。2009年8月現在、全世界で稼働している原発は436基。さらに52基が建設中、76基が建設計画中にある。日本でも、米国、フランスに次いで多い53基が稼働しており(合計出力4793.5万kW=09年1月現在電気事業連合会調べ)、新たに13基が建設中または着工準備中だ。「原子力ルネサンス」という言葉も生まれている。

今後の課題

エネルギー政策の目指すところは、「安全」で「低価格」で「環境に優しい」エネルギーを「長期にわたり安定」して供給していくこと。石炭などによる発電は原子力と同様に低価格でできるが、CO2排出量が多いのがネック。再生可能エネルギーはCO2排出量は少ないが、コスト面でまだ問題が残る。将来、原子力なくして電力の需要をまかなっていくことはできるのだろうか。またそれはいつになるのか。明確な見通しがなかなか立たない中、安全対策が強化されている原子力発電の安全性を強調する声が高まり、原発推進の動きはますます進んでいる。

しかし、いくら原発の安全が保障され、稼働期間を延長することになったとしても、原発のもう1つの大きな欠点、放射性廃棄物の処理問題は未解決のままだ。最終処分場として国内では、ニーダーザクセン州ゴアレーベンが候補に挙げられているものの、住民の反対は強く、さらに国際環境保護団体グリーンピースも適地ではないとする調査結果を発表している。原発を廃止するにしても、続けるにしても、課題は多い。今後の動きに注目していきたい。

【図表】ドイツにおける電源別発電電力量

Quelle: AG Energiebilanzen (2009年見通し)

ドイツの原子力発電所

用語解説

脱原発
Atomausstieg

脱原発法で、商業用の原発建設が禁止されるとともに、原発の稼働期間が平均32年に制限された。これに基づき03年にニーダーザクセン州シュターデ、05年にバーデン=ヴュルテンベルク州オブリヒハイムの両発電所が運転を終了した。なお原子力発電所は「Atomkraftwerk (AKW)」。原発を推進するCDUは「アトム」という表現を避け、同義の「Kernkraftwerk (KKW)」を使っている。

<参考文献>
■ Bundesministerium für Wirtschaft und Technologie
■ Bundesministerium für Umwelt, Naturschutz und Reaktorsicherheit
■ Die Welt "und prüft AKW-Laufzeitverlängerung von 28 Jahren" (27.03.2010) ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。