比べてみよう! 日本とドイツ - 女性の社会進出 -

Dienstag, 20 November 2012 09:00

1985年、日本で「男女雇用機会均等法」が成立してから四半世紀以上が経った。だが日本女性の社会進出は、先進諸国に大きく遅れをとっていると考えられている。今回は、実際に日本女性の経済的地位は低いのか、そしてドイツの状況はどうなっているのかについて見ていきたい。

出産を機に退職する日本、しないドイツ

2012年10月、国際通貨基金(IMF)年次総会が東京で開かれ、「Can women save Japan?」(女性の社会参加が日本の経済再生のカギ)というレポートが提出された。下の図のように、日本では、働く女性の数が20代後半から減少するが、これは出産した女性の6割が退職するためだ。その後、再就職によって数は増えるが、就労形態は半数以上が非正規雇用。このようなM字カーブを描いている国は、日本のほかには韓国のみで、ドイツなどの他国にはみられない現象だ。

だからといって、ドイツの出生率が極端に低いわけではない。2008年の合計特殊出生率は、日本もドイツも1.37とまったく同じである。つまりドイツでは、子どもを産み、育てるために退職する女性の数が少ないということがわかる。

女性の年齢階層別労働力率(国際比較)
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女性の年齢階層別労働力率
Quelle:内閣府男女共同参画局

女性管理職の割合

国際労働機関(ILO)の統計によると、2008年の女性管理職の割合は日本で11.9%、ドイツでは38%である。ヨーロッパの先進国は軒並み30%台であることを考えると、日本は女性の管理職登用が遅れていると言わざるを得ない。

女性の管理職登用において先進的なのはノルウェーである。ノルウェーでは、2004年1月より国営企業でクオータ制が導入された。これは、取締役会における男女どちらかの性の比率が40%を下回らないようにするという政策である。その結果、取締役女性の比率は2003年の6%から2010年には44%へと上昇した。

ドイツでも、同様の取り組みを行うことについて激しい議論が起きている。ハンブルク市のヤーナ・シーデク法務・機会均等相は先項、「監査役会における女性の機会均等法案」を連邦参議院に提出し、連邦政府への提案として可決された。その法案の内容は「監査役会における女性の割合指標を2018年から20%、2023年から40%にする」というものである。同案が政府、さらに連邦議会で成立する可能性は低そうだが、このような動きがあることは注目に値する。

縮小されない男女の賃金格差

先月、女性の機会均等に取り組むドイツでショッキングな統計が発表された。2012年10月4日に連邦統計局が発表した2010年の賃金統計によると、年齢、教育水準を問わず、男女間の賃金格差が約22%に上るというのだ。

職種別に見た男女の賃金格差は、エンジニアが30%と最大で、大学などの学術分野で28%、手工業で25%。年齢別にみると、24歳以下では格差は2%とほんのわずかであるが、年齢が高くなるにつれてその差は顕著となり、55~64歳では28%と、その差が4分の1以上に開く。それでもドイツは、男女間の賃金格差が比較的小さな国と言える。

所得階層別の平均男性賃金にしめる平均女性賃金の割合 
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所得階層別の平均男性賃金にしめる平均女性賃金の割合
Quelle:OECD Family Database online 2011

上のグラフは、フルタイム労働に従事する高所得層(所得分布上位20%=赤)と低所得層(所得分布下位の値20%=緑)の男女格差を表すものである。ここから、日本や韓国では高所得層で男女格差が拡大していることがわかる。クオータ制を導入しているノルウェーでも同じ傾向がうかがえる。一方、ドイツでは高所得層の値が低所得層の値を下回っている。つまり、全体的な男女格差はあるが、所得層によって男女差が変わることはないのだ。

今回の比較では、ドイツは日本と比べて女性の社会進出は進んでいるが、男女格差は依然として存在するということがわかった。さらに、日本とドイツの一番の違いは、積極的に男女の機会均等を働きかける動きがあるかどうか、なのかもしれない。

労働時間と出生率

本文では詳しく触れなかったが、女性の社会進出と出産、育児や家事労働との間には切っても切れない関係がある。連邦統計局が発表した2010年の賃金統計の賃金格差の説明として、女性のパートタイム労働が挙げられている。下記は1週間の労働時間を表すグラフだが、労働時間と出産・育児との関係を裏付けている。

週の労働時間の男女比(男=緑、女=オレンジ)
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週の労働時間の男女比
Quelle:OECD Family Database online 2011

ドイツでは、隣国フランスと比べてフルタイムの労働時間が長い。また、女性の週の労働時間が、0~19時間から40時間以上へとまんべんなく分布しているが、これは女性のパートタイム労働が多いことを示している。また、ドイツでは日本と同様に、育児における女性の役割を重視する傾向が強いと言われている。つまり、男性が長時間のフルタイム労働で家計を担い、育児を任せられた女性がパートタイム労働に従事しているという見方ができる。

2008年のドイツの合計特殊出生率が1.37なのに対し、フランスは1.98である。フランスの男性がドイツより労働時間が短いことから得られる家庭での時間を育児のサポートに充てているとすれば、政府の諸政策も含め、周囲のサポートが出生率を押し上げているとも考えられる。

用語解説

女性解放 Die Frauenemanzipation

女性運動の最初に出てくるフレーズ。女性解放の究極の目的は、男性と完全に平等に扱われることだが、生来の性差や、文化よって広められた女性の本質的な特徴を理由に、実現には至っていない。政治的、法的平等については、どの国でも制度が整いつつあるが、ほとんどの国において、政治およびビジネスの世界で女性が男性より高い地位にいることはめったにない。

参考
■ NHKクローズアップ現代(17.10.2012)
■ 総務省統計局「母の年齢別出生率」(2011)
■ ILO (2012) LABORSTA Labour Statistics Database
norway.or.jp "民間企業役員のクォータ制 男女平等を後押し"
■ 「ニュースダイジェストNo.939「ニュースの顔:ヤーナ・シーデク」(05.10.2012)
www.wissen.de "Frauenemazipation" ...ほか

藤田さおり(ふじた・さおり) 法政大学経営学部経営学科卒業。ニュルンベルク在住。スイスの日本人向け会報誌にて、PCコラムを執筆中。日本とドイツの文化の橋渡し役を夢見て邁進中ですが、目下の目標は、ドイツの乳製品でお腹を壊さないようになること。
最終更新 Dienstag, 04 Juni 2019 17:13