3 Dezember 2010 Nr. 845
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1982年 福島県生まれ
2005年 武蔵野美術大学 造形学部油絵学科[版画専攻] 卒業、
武蔵野美術学園にて版画を修業
2006年 オランダへ渡る
2008年 デン・ハーグ王立芸術アカデミー卒業
~現在 デン・ハーグを拠点に創作活動中
畠澤さんは主に、俳優で劇作家であったドイツ人ゼネフェルダーが偶然から発明した版画の技法「リトグラフ」を用いて作品を描く。2008年には、Allianz Netherlands Grafiekprijsで1等賞を受賞。独特な世界観が評価された。

「たった一度の人生、好きなことと職業を結び付けて、一番無茶そうなことをやってみよう!」

進路に悩む高校2年生の頃、畠澤由希さんが見付けた答えは「絵描きになること」。安定志向が全くなかったわけじゃない。でも、社会に生活を保障してもらえるわけでもない、どの道、自力で生きていかなければならないのだから・・・・・・と、最大限に可能性の羽を広げてみることにした。

「オランダに行くといいよ~」という恩師の声が頭に響いたのは、大学卒業の直前だった。大学院の不合格通知によって進路が閉ざされ、途方にくれていた畠澤さんに一筋の光を与えたのは、まさに「天使」と敬愛してやまない永井研治教授の言葉。油絵に行き詰まり、版画科へ進んだ畠澤さんに、石の上に油性の画材で絵を描き、化学反応で版を作る伝統的なリトグラフの技法と魅力を粘り強く教えてくれたのが永井教授だった。リトグラフの本場欧州、中でも教授自身も留学経験があるオランダへの渡航をかねてから畠澤さんに勧めていた。

ときに200kgもある石を扱うハードな肉体労働が不可欠なリトグラフに取り組むアーティストは、欧州においても少ないが、「体を動かしながら作品を作り上げている感覚が好き」とリトグラフにこだわる畠澤さんに転機が訪れた。グラフィックアートのコンテストで最終選考にノミネートされたのだ。しかし、喜びもつかの間、「新しい作品を6週間で提出すること」との指示に愕然とする。時間だけが残酷に過ぎ去る中で、その少し前に水族館で見たアザラシの姿が思い出される。「いいなぁ、アザラシは。何も悩み事がなさそうで」と、アザラシの体に自分の顔を描く。この自然な欲求から生まれた作品「Sorry, I'm lazy」が、晴れて1等賞を受賞した。

「常にスランプ」と苦しみながらも、「良いことも悪いことも、もっとたくさん経験したい」と笑う彼女の生きるエネルギーが、また新しい作品を生み出す。

(編集部:高橋 萌)


Sorry, I'm lazy, 2008(Lithograph)



Becoming a flower, 2009(Lithograph)



Crows, 2009(Lithograph)
Information

Potato Heads, 2009
(Lithograph)

畠澤由希作品展 
『リトグラフ&ドローイング in カフェ・リラックス』

2011年4月まで(予定)

現在、デュッセルドルフの「カフェ・リラックス」で畠澤さんの作品の一部を展示販売中! 対となる2つの世界の狭間や、妄想の世界を描く、どこか懐かしくて、どこか神秘的な作品が並ぶ。「観に来られた方に、ゆったり想像の旅をして頂けるような展示でありたいと思っています」と畠澤さんは想いを語る。

Cafe RELAX
Immermannstr.28, 40210 Düsseldorf
TEL: 0211-1795653
畠澤由希さんの作品情報: www.oyuki.nl