27 Mai 2011 Nr. 869
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1978年 大阪府箕面市生まれ
2001年9月 早稲田大学商学部卒業
2004年3月 早稲田大学大学院文学研究科ドイツ文学専攻
修士課程修了
2005年9月 渡独。ボン大学に交換留学生として在籍
2009年10月~ ハイデルベルク大学会議通訳修士課程在籍
ボン大学在籍中にヘルマン・ヘッセの『インドから』の翻訳を手掛ける。その後、エアフルト、ギーセンでドイツ語・ドイツ文学を学び、ギーセン大学在籍中にドイツ語大ディプロム(GDS)取得。現在、日→独、独→日、英→日と3言語対応の会議通訳者を目指して修行中。

東日本大震災をめぐるドイツ世論、メディアの報道が概して悲観的な方向に傾く中、経済誌Wirtschaftswocheの編集長が同誌3月21日号に「親愛なる日本の皆様へ」と題して載せたコメントを日本語に訳してブログに公開したところ、それを目にした読者から大反響を呼び、「励まされた」との感想が数多く寄せられた。訳者は、宇野将史さん。

彼の翻訳なしに、このコメントに共鳴できた日本人が、どれほどいただろう。人は互いに言葉を介して未知の世界へ入り、心を通わせる。宇野さんは、いわばその橋渡し役だ。

幼少期からのクラシック音楽好きが高じて、大学でドイツ文学と音楽の関係について研究、ドイツ語の勉強にも没頭した。文学研究を続ける目的で渡独し、ヘルマン・ヘッセ作品の翻訳などもしながら4年程経った頃、ハイデルベルク大学に日独通訳の修士課程が新設されるという情報を入手。翻訳より瞬発的な語学力が必要とされる通訳の分野で、それまでに培った自身のドイツ語力を試すべく、入学を決めた。

だが、そこでは盾にしていた語学力への自信と要求されるスキルの差を思い知ることに。まず、会議通訳者の養成課程とあって、扱うテーマは政治や経済など専門性が高い。そこに、話される内容を瞬時に理解し、聞き手に主旨が伝わるよう分かりやすく簡潔にまとめて発言するという、通訳の核心となる技術が加わる。さらには声の出し方や身の振り方など、プレゼンテーション能力も鍛えなければならない。

現在は、文学の研究とは180度異なる実践トレーニングに追われる日々。前途は多難だが、通訳を務めることで様々な分野の専門知識に触れ、「知らなかった世界をのぞき見る楽しみ」を感じている。「通訳はあくまで受け身で、2者間の黒子に徹する立場という通念に捉われず、日独の両言語を媒体に、幅広い分野で得た知見を両国の交流のきっかけ作りに役立てたい」と語る宇野さん。自己分析によれば、彼は「ゲーテのファウストのような『知識欲の権化』が、現代によみがえった姿」なのだそうだ。

(編集部:林 康子)


ドイツの企業を視察に訪れた日本企業のために、逐次通訳



ドイツ語から日本語への同時通訳の授業風景



同時通訳用のコンソール。
大学には、通訳用のブースがある会議場兼教室が3つある

Information

ヘッセン州北部メルズンゲンの市庁舎

宇野さんのブログ
「ドイツ木組みの家街道」
http://fachwerk.exblog.jp
ドイツの文学作品の中に出てくる土地と実際の場所との関連を追及したいとの思いから、宇野さんはドイツ文学所縁の地や古き良き時代の姿を現世にとどめる田舎町を訪ねている。その記録を歴史的な背景の解説・写真付きで発信しているブログは、「知られざるドイツの顔」をのぞかせてくれる宝箱だ。

※ブログ内に、Wirtschaftswoche誌のRoland Tichy編集長によるコメントの翻訳も掲載。

通訳・翻訳に関するお問い合わせ(日独英対応)
massafumiuno [at] yahoo.de