コンツェルトハウス前の「運命」交響曲

3 Juli 2020 Nr.1125
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小雨が降る土曜の夕方、地下鉄のフランス通り駅で降り、コンツェルトハウスに向かう。新型コロナウイルスの影響でベルリン市がコンサートホールと劇場の全公演を中止にする決定を下してから3カ月が経っていた。再びコンサートに行けるのが不思議な気分で、心はどこかそわそわしている。

コンツェルトハウス前で行われた野外コンサート。立つ場所が円で指定されている
コンツェルトハウス前で行われた野外コンサート。立つ場所が円で指定されている

コンサートといっても、ベルリン市は7月末までホールや劇場に聴衆を入れた催しを禁じているため、コンツェルトハウス管弦楽団は6月20日と21日の週末に、ジャンダルメンマルクト広場で無料の野外公演を開くことを決定したのだった。

入場口でチケットを提示して、会場に入る。さて、どこに立って聴こうかと思っていると、地面にたくさんの白い円が描かれているのに気付いた。なるほどソーシャルディスタンスをこうやって取るのかと納得。単身で来た人、家族連れ、カップルなど各自が小さな丸い島にいるようで少しおかしい。ベルリン市は6月16日から500人までの屋外の催しを認めており、今回はその範囲まで人を入れたようだ。

オーケストラの人数は38人。劇場正面の階段に置かれた椅子に、音楽家は1.5〜2メートルの間隔を空けて座っている。コンツェルトハウスのインテンダント、ノルトマン氏とベルリン市のレーデラー文化大臣が短い挨拶をした後、指揮者のクリストフ・エッシェンバッハ氏がマスク姿で登場すると、盛大な拍手が送られる。私もほかの人たちと一緒に拍手をしたが、そういえば手を叩くという行為自体がずいぶん久しぶりだ。80歳のマエストロは、マスクを外して力強く指揮棒を振り下ろすと、ベートーヴェンの有名な交響曲第5番の旋律が鳴り響いた。

約500人の観客が喝采を送った
約500人の観客が喝采を送った

選曲はエッシェンバッハ氏の希望だそうだが、確かにこの曲ほど今の時代を反映したものはそうないだろう。突然「運命の扉」が開かれ、予期せぬものとの闘いに直面する第1楽章。第2楽章で訪れる静寂は、外出制限で街が静けさに包まれた日々に重ね合わせずにはいられない。そして、ぐつぐつと感情が高まってなだれ込む歓喜のフィナーレ。「200年前の音楽? これは今の自分たちの音楽じゃないか」と思いながら、私は久々にライブの音楽に浸った。

雨が少し強くなって、傘を差す人が増えてきた。時々強風が吹くなど、オーケストラのメンバーにとって演奏しやすい環境ではなかっただろう。それでも、人がこうして集まって音楽を奏で、耳を傾ける人がいること自体が尊いのだと思う。終演後、私は感謝の気持ちで力いっぱい手を叩いた。

9月からの新シーズンをどういう形で迎えられるのか、まだ多くの点で不透明だ。それでも先のノルトマン氏は、「来場者にアンケートを取ったところ、75%のお客さんがコロナ禍でもコンサートに来たいと答えられ、事前のチケット売り上げは9%しか落ちていません。こういう数字はプランを立てる上で助けになります」と話す。来年設立200年を迎えるコンツェルトハウス、次は再びこの建物の中でコンサートを聴けるだろうか。

インフォメーション

ベルリン・コンツェルトハウス
Konzerthaus Berlin

ジャンダルメンマルクト広場に面したコンサートホール。1821年5月に劇場としてオープンし、翌月ウェーバーのオペラ「魔弾の射手」がここで初演された。2021年6月19日(土)、初演200年を記念して「魔弾の射手」がコンツェルトハウス管弦楽団により上演される予定だ。

チケットオフィス:月曜〜土曜12:00〜19:00、日曜・祝日12:00〜18:00
住所:Gendarmenmarkt, 10117 Berlin
電話番号:030-203092333
URL:www.konzerthaus.de

ベルリン・ドイツ・オペラ
Deutsche Oper Berlin

コロナ禍、ベルリンの三つの歌劇場の中でいち早く活動を再開したオペラハウス。6月半ば、音楽監督のドナルド・ラニクルズ指揮のもと、屋外駐車場でワーグナーの楽劇「ラインの黄金」を室内アンサンブル版で上演。夏季休暇明けの8月21日(金)〜23日(日)にも再演される。

チケットオフィス:月曜〜土曜・祝日12:00〜19:00
住所:Bismarckstr. 35, 10627 Berlin
電話番号:030-34384343
URL:www.deutscheoperberlin.de