ユダヤ博物館は、ベルリンの数あるミュージアムの中でも特に好きなものの一つだ。それは何より、ダニエル・リベスキンドによる鋭角的で斬新な建築の魅力と、広大なスペースを使った常設展によるところが大きい。質の高い日本語オーディオガイドも用意され、何度足を運んでも発見と学びがあった。
ベルリン・ユダヤ博物館の新しい常設展から音をテーマにした部屋
その常設展が2年半の準備期間を経て、8月23日にリニューアルオープンした。コロナ禍の影響で数カ月延びたとはいえ、開館以来初の大きな再編による展示を、一般公開に先駆けて見ることができた。
「亡命の軸」と「ホロコーストの軸」に代表される地下空間から階段を上がった先が常設展の入口。最初の部屋の壁にはヴォルムス、シュパイヤー、エアフルト、マインツといった地名が記され、これまで同様、ドイツにおけるユダヤ人の歴史がテーマの根幹であることを明確にしている。
中世のコーナーでは、当時の都市におけるユダヤ人の居住の様子や、主に宗教に起因する迫害の歴史が展示されている。そこに置かれた若いエクレシアと目隠しをしたシナゴーガという2人の女性の像は、キリスト教とネガティブなユダヤ教のイメージを対照的に擬人化したものとして知られる。
ユダヤに関する音を集めたコーナーでは、伝統的な結婚式や祭りの音楽に加え、シャバット(安息日)の静寂を体験できる部屋も。リベスキンドの建築に合わせた空間のデザインも見ものだ。また、タッチパネル式によるオーディオビジュアルの展示が増えた。ユダヤ教とキリスト教が平和裡に共存していた18世紀ベルリンの様子をリアルに体験できる。
1871年のドイツ帝国の統一により、ユダヤ人に市民権が認められたものの、人種的な排斥論が高まってくる。反ユダヤ主義思想としばしば結びつけられる著名人といえば、作曲家ワーグナー。指揮者のダニエル・バレンボイムと演出家のバリー・コスキーという2人のユダヤ人芸術家が、自身のワーグナー観について語る映像はスリリングだ。
1933年以降の歴史を展示したコーナー「カタストロフィー」
今年就任したオランダ出身のヘティ・ベルク館長は、「ベルリン・ユダヤ博物館はホロコースト博物館ではありません」と語るが、ナチス時代のコーナーは特別な意味合いを帯びる。「破滅」と題された一角では、膨大な量の年譜が目に入った。1933年以降に施行された962もの反ユダヤの法律や処置を視覚化したものだ。「当時の政治上の発展と個々人の運命。その両方に重点を置いた展示を作ることが重要でした」(キュレーターのチリー・クーゲルマン)。凄惨な写真はないが、収容所へ送られる絶望のなかで書かれた手紙の小さな声には虚をつかれた。
新常設展は、1945年以降にも重点が置かれている。東西ドイツで違う道を歩んだユダヤ人、さらにロシア系ユダヤ人の移住の波。そのボリュームに圧倒され、出口に着く頃にはくたくたになっていた。ずっしりと重いけれど、ユダヤ世界の多様性に触れる窓が無限に用意されていて、好奇心が刺激された。
ベルリン・ユダヤ博物館
Jüdisches Museum Berlin
2001年にオープンした欧州最大規模のユダヤ博物館。1700年以上に及ぶドイツにおけるユダヤ人の歴史や生活を展示の主題にしている。現時点ではドイツ語と英語のオーディオガイドのみ。下記サイトから時間指定のチケットを事前予約できる。地下鉄のHallesches Tor駅より徒歩10分弱。
オープン:月曜〜日曜10:00〜19:00
住所:Lindenstr. 9-14, 10969 Berlin
電話番号:030-25993300
URL:www.jmberlin.de
アノハ
ANOHA
現在準備中のベルリン・ユダヤ博物館付属のファミリー館。3歳から10歳までの子どものいる家族を対象にしており、有名なノアの箱舟の物語を冒険しながら学べるコンセプトになっているという。本館の向かいに位置し、オープン予定は2020年11月。いずれこの連載でもご紹介できるかもしれない。
住所:Fromet-und-Moses-Mendelssohn-Platz 1,10969 Berlin
URL:www.anoha.de