よみがえった知の殿堂ウンター・デン・リンデンの国立図書館

5 Februar 2021 Nr.1139
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ベルリンの大学に籍を置いていた2002年ころ、 ウンター・デン・リンデンの国立図書館に何度か足を運んだことがある。ネオバロック様式の壮麗な建物に入ると、噴水が置かれた中庭に出る。建物にはツタが生い茂り、時の重みを感じながら次のドアを開けると、眼前に広がる巨大な階段の吹き抜け……。得も言われぬ古めかしい匂いがしたのをよく覚えている。それはベルリンという都市が積み重ねてきた唯一無二の歴史が醸し出す匂いでもあった。

全面改装されたベルリン国立図書館の階段ホール
全面改装されたベルリン国立図書館の階段ホール

その数年後、図書館は全面的な改装工事に入り、永遠に続くかのようにさえ思われた。しかし、ロックダウンの最中の1月25日、国立図書館はついに再オープンの時を迎えた。オンラインでの式典では、プロイセン文化財団のヘルマン・パルツィンガー総裁が感慨を込めてこう述べた。「この建物の戦後の歴史が今日終わったのです」。

現在の場所にプロイセン王立図書館が居を構えたのは1914年のこと。ドイツ帝国最後の皇帝ヴィルヘルム2世の命のもと、国の威信をかけて造られたこの図書館は、パリやロンドン、ワシントンのそれにも匹敵する世界最大級の規模を誇った。入口には壮麗なドームがあり、同じベルリンの帝国議会議事堂にも比されるほどのスケールだったという。

しかし、第二次世界大戦末期の空爆により、図書館は大きく破壊された。戦後、廃墟のままそびえていたドームは後に東ドイツにより解体され、本を収納するためのコンクリート製の4本の塔が建てられたものの、キャパシティー不足は否めなかった。

ウンター・デン・リンデンに面した国立図書館の正面
ウンター・デン・リンデンに面した国立図書館の正面

再統一後、ウンター・デン・リンデンの国立図書館は、西側のポツダム通りの国立図書館と、プロイセン文化財団の名の下に統合されることになる。そして2005年から、著名な建築家ハンス=ギュンター・メルツの指揮により改装工事が始まる。まず、2013年にオレンジ色を基調とする立方体の斬新な閲覧室がオープン。今回15年におよぶ工事が完了し、「歴史的でありながら、非常に近代的な」(パルツィンガー総裁)図書館として生まれ変わった。

奇しくも今年、国立図書館から数百メートルしか離れていない旧プロイセン王宮がフンボルト・フォーラムとして事実上のオープンを迎える。国立図書館の出発点となったのは、1661年に誕生したこの王宮の「薬屋の翼」と呼ばれた部分である。そして新しい施設の名となったフンボルト兄弟は、ドイツの教養主義に大きな影響を与えた人物。ベルリンの中心部に、教育と学術のネットワークが新しい形で復興することに興奮を覚える。

コロナ禍の前まで、フリーランスの私は西側の国立図書館によく通っていた。本を借りることもあるが、一種のコワーキングスペースとして使うことの方がずっと多い。個人の仕事に集中することができ、同時に知の広がりや社会とのつながりを感じられる図書館の機能性が気に入っているのだと思う。復元された入口のドームに足を踏み入れたとき、今度はどんな匂いがするだろうか。

インフォメーション

ベルリン国立図書館
Staatsbibliothek zu Berlin

下記のポツダム通り館と合わせて、2500万冊以上の蔵書を誇るドイツ最大の図書館。所蔵物の中には、ベートーヴェンの第9番交響曲とバッハのロ短調ミサ曲の自筆総譜、ルターの95カ条の論題の原資料など、ユネスコの世界記憶遺産に認定されたものも含まれる。

開館:現在は休館中。2月8日から貸し出しを再開予定
住所:Unter den Linden 8, 10117 Berlin
電話番号:030-266-433888
URL:https://staatsbibliothek-berlin.de

ベルリン国立図書館ポツダム通り館
 Staatsbibliothek zu Berlin Haus Potsdamer Straße

西ベルリン時代の1978年に完成したもう一つの国立図書館。隣接したベルリン・フィルハーモニーと同じく、建築家ハンス・シャロウンの設計で、船をイメージした内観のデザインが特徴的。映画「ベルリン・天使の詩」で、天使たちの住まいとして描かれたことでも知られる。

開館:現在は休館中
住所:Potsdamer Str. 33, 10785 Berlin
電話番号:030-266-433888
URL:https://staatsbibliothek-berlin.de