私事だが、この9月末でドイツ在住歴25年を迎えた。日本で暮らした25年とほぼ並んだことになる。これからはドイツで過ごす時間の方が長くなるのかという感慨と、この間のさまざまな出会いを振り返る機会が増えている。そんな折の10月14日、ベルリン日独センターで行われた講演会「ドイツと日本― 自由・安全保障・繁栄を共に築く特別なパートナー」に足を運んだ。登壇者は、ヨハン・ヴァーデフールドイツ連邦共和国外務大臣。日独の多様な交流行事を開催する日独センターだが、現役の大臣を招いてのイベントは珍しい。今年創立40周年を迎える同センターの記念行事として企画されたそうだ。
ヴァーデフール外務大臣(左から3人目)を囲む日独の関係者
多忙なスケジュールの合間を縫って、満席の聴衆の前に現れたヴァーデフール氏は、最初に15分弱の短い講演を行った。ロシアや中国の脅威、さらに世界的にポピュリズムが蔓延するなか、160年もの交流の蓄積がある日独関係は、重要さを一層増しているという、講演のタイトルが示す通りの内容だった。
その後、日本経済新聞社欧州駐在編集委員の赤川省吾氏とヴァーデフール氏の対談が行われた。この8月、外相が就任後初のアジア外遊での最初の国として日本を訪れたことはSNSの投稿で知っていたし、新幹線の優秀さを語る様子に親しみも感じていた。だが、そこで語られた日本との関わりは、私の予想を超えるものだった。
ヴァーデフール氏は、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州の出身。長女はかつて、キールのギムナジウムで毎週土曜日に日本語の授業を受けていたという。その下の2人の娘も日本に興味を持ち、長女はハンブルクで日本語検定試験まで受けた。やがて娘たちは、日本語学習のコースの一環で兵庫県の県立高校に短期留学し、反対に一家は日本からの高校生を受け入れたそうだ。「2回目の受け入れの際、妻が私に『娘たちは日本に行ったのに、私たちはまだよね』と言ったので、最終的に私たち一家は3週間日本で過ごしたのです。それはこれまでの休暇の中で、最も素晴らしいものでした。日本に詳しい娘たちに案内してもらったり、受け入れてくださったホストファミリーを訪ねたり……。そういう経緯から、私は日本という国が大好きになりました」。
ヴァーデフール外相と赤川氏の対談の様子
実は、もう一つ大切な個人的な交流が、講演で紹介された。最初の日本旅行の時に大阪で道に迷った際、20分ほど一緒に歩いて案内してくれた男性がいた。連絡先を交換してその後もやり取りが続き、8月に大阪・関西万博を訪問した際、会場で消防士として活躍するこの旧友と外務大臣になったヴァーデフール氏はうれしい再会を果たしたそうだ。「地理的にはこれだけ離れていても、日独間でさまざまなレベルでの交流を続けていけば、絆を深め、継続的な関係性が構築されていく。娘たちを見ていてもそのことを実感します」
普段は国家間の問題を扱うヴァーデフール外相のお話は、日独センターのみならず、私のように日独のはざまで生きる人へのエールにも感じられた。
ベルリン日独センター
Japanisch-Deutsches Zentrum Berlin
1985年、当時の中曽根総理とコール首相の提唱により、公益財団法人として設立。経済、学術、文化、社会、政治といった多様な分野において、日独の交流と対話の拠点として重要な役割を果たしてきた。日本語講座や書道講座のほか、毎月第一月曜日のオープンマンデーなど、多彩な行事を開催している。
住所:Saargemünder Str. 2, 14195 Berlin
電話番号:030-839070
URL:www.jdzb.de
ベルリン日独センター40周年記念展:伝統から現代まで
40 Jahre JDZB: Kunst von Tradition bis Moderne
ベルリン日独センター創立40周年を記念した展覧会。日本画家の巨匠、東山魁夷、加山又造、白髪一雄の絵画や人間国宝の井上萬二、室瀬和美による美術工芸品など、センターの歴史と深く結びついた所蔵品から選りすぐりの芸術作品を公開している。開催は12月19日(金)まで。入場無料。
開館:月~木15:00~20:00
URL:www.jdzb.de
