ベルリンで好きな風景はたくさんあるが、グルーネヴァルトの森の向こうにゆったり蛇行するハーフェル川の眺めは、いつ見ても心和ませるものがある。5月末の土曜日、森にそびえる塔に家族で登ってみようと思い立った。
グルーネヴァルトの森に行く時の恒例として、テオドア・ホイス広場を経由する218番バスに乗ろうとしたのだが、待てどもバスがやって来ない。この日はサッカーのドイツ杯決勝がオリンピックスタジアムで開催されるから、道路を封鎖しているようだ。こんな日に鉢合わせしたのが失敗だった。「交通の便の悪いところだし、今日は諦めるか」と思いかけたところ、バスに詳しい11歳の息子がこう言った。「だったら、Sバーンでヴァンゼーまで行って、反対方向からバスに乗ればいいじゃん」。たしかにその通りだ。ヴァンゼーに向かい、駅前で待っていると、前のバスが大幅に遅れてやって来た。
皇帝ヴィルヘルム1世を記念して建てられたグルーネヴァルト塔
森の中に入ると、緑一色になる。並行するハーフェル川も時々視界に入るが、ここではまだチラ見程度。心地よい緑のシャワーを浴びつつも、やはり上から俯瞰してみたくなる。Grunewaldturmで降りると、森の中には場違いなほどのモニュメンタルな塔が現れる。北ドイツ特有のレンガ・ゴシック様式だ。
元の名をカイザー・ヴィルヘルム塔という。ドイツ皇帝ヴィルヘルム1世(1797-1888)の生誕100年を記念する国家的モニュメントとして建てられた。なぜこんな辺ぴな場所に、という疑問はさておき、登ってみることにしよう。中に入ると、カイザーひげの皇帝の彫刻と向き合い、天井には金色のモザイクが彫り込まれている。同じ建築家フランツ・シュヴェヒテンが手がけた、市内のカイザー・ヴィルヘルム記念教会とうり二つといっていい様式だ。
教会の塔と違って、歩きやすい構造になっており、さほど疲れることもなく展望台まで上がった。展望台部分の高さは36メートルだが、ベルリンの中では高い標高79メートルのカールスベルクに建っているため、迫力は十分。緑の海に浮かぶ蜃しんきろう気楼のようなベルリン中心部から、ハーフェルの湖水に浮かぶボートやヨット、さらにポツダム方面も視界に入った。
眼下に広がるハーフェル川とグルーネヴァルトの森
当時、ヴィルヘルム1世が「ドイツ統一の父」として崇められていたため、帝国を見渡す象徴的な場所が選ばれたという。この塔をモデルにしたリューデスハイムのニーダーヴァルト記念碑にもいずれ行ってみたい。
塔から降りてきて、下のカフェで休憩した。ここに来るのは、生粋のベルリン子のウリさん夫妻と訪れて以来だった。「足の不自由な夫でも車で連れて行けるから」という妻のウラさんの配慮で選ばれ、アイスパフェをご馳走になった。その2年後、ウリさんは他界した。
自然を前に佇んでいるとつい最近のことのように思われるが、調べたらもう14年も前だ。あの後に生まれた息子の機転のおかげで、懐かしい場所を再訪できた気がする。
グルーネヴァルト塔
Grunewaldturm
モダニズムを代表する建築家ミース・ファン・デル・ローエの設計により1968年にオープンした美術館。現在、20世紀の抽象彫刻を代表するコンスタンティン・ブランクーシの特別展(2026年8月9日まで)、「政治と社会の間の芸術1945〜2000年」(2027年4月25日まで)、「ゲルハルト・リヒター」展など、充実した展覧会が続いている。全展を見学できるチケットは20€(割引10€)。
オープン:月〜木11:00〜19:00、金〜日11:00〜20:00
住所:Havelchaussee 61, 14193 Berlin
電話番号:0151-65210827
カイザー・ヴィルヘルム記念教会
Kaiser-Wilhelm-Gedächtniskirche
グルーネヴァルト塔と同じく、シュヴェヒテン設計による教会。皇帝ヴィルヘルム1世を記念して、1895年に完成した。1943年11月の英国軍の空爆により、教会本堂は破壊されたが、塔の部分は保存され、戦争の記憶を今日に伝えている。礼拝やコンサートは、隣接するブルーのステンドグラスが美しい新教会で行われる。
オープン:火〜土10:00〜18:00(展示)、月〜日10:00〜18:00(新教会)
住所:Breitscheidplatz, 10789 Berlin
電話番号:030-2185023
URL:www.gedaechtniskirche-berlin.de
