地上防空壕で観る現代アート

16 März 2012 Nr. 910
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グリュンダーツァイト博物館
ミッテのラインハルト通りにそびえ立つ地上防空壕。
屋上にボロス氏のペントハウスが見える

不要となった建物は解体して新しく造り替える。一方、残す価値のある古い建物は修復して大事に使い続ける。程度の違いこそあれ、ドイツでも日本でも、都市の進化の過程においてそれは変わらない だろう。が、例外もある。

フリードリヒ・シュトラーセ駅の西側出口からシュプレー川を渡り、アルブレヒト通りを直進。やがてラインハルト通りの角に、古代の要塞のようにも見える灰色一色の 建造物が、無言の圧力をもって目の前に迫ってくる。通称「帝国鉄道防空壕」。もはや不要だが、取り壊したくてもあまりに頑丈に造られているがゆえに解体不可能な地上防空壕が、ベルリンにはほかにもいくつか現存する。「帝国鉄道防空壕」は、第2次世界大戦中の1943 年、強制労働者を動員して建設された。近くのフリードリヒ・シュトラーセ駅が空爆を受けた際、最大2500人の駅の利用客を収容するのが目的だった。45年5月にソ連赤軍によって接収された後は、戦争捕虜の収容所として使われることになる。東ドイツ時代の57年からは果物の貯蔵施設、壁崩壊後の92年からは半ば不法なハードコアのテクノクラブになるなど、その時々の政治状況を背景に活用されてきた。

数年前、私がこの防空壕を初めて訪れたときは空っぽの状態だったが、しばらくしてから「ボロス・ コレクション」という名の現代アートの展示場に生まれ変わったというニュースを耳にした。しかも大人気でなかなか予約が取れないという。気になったまま時が流れていたのだが、先日ようやく中に入る機会が巡ってきた。

入り口で、まるで人が入ってくるのを拒むかのような重い扉を2つ押し開けて中に進むと、突然真っ 白な空間が開けた。頭上からは別のツアー客の声が聞こえてきて結構賑やか。きれいなロッカーに加 え、テーブルの上にはコーヒーが用意されている。外観とのギャップに驚くほかなかった。

中に入ってすぐ、デンマーク人作家オラファー・エリアソンによる虹色の光が空間を包み込む美しい作品に出会う。ポーランド人作家モニカ・ソスノヴスカのインスタレーションでは、暗いトンネルの中を屈みながら前に進んで行く。 世界的に著名な作家が、この場に密着して制作した作品ばかりとい うから何とも贅沢だ。彫刻、インスタレーション、映像を使った作品などが、3000㎡にも及ぶコンク リートむき出しの空間に並ぶ。

BERLIN COLOUR SPHERE
"BERLIN COLOUR SPHERE"

とはいえ、現代アートであるから、にわかには理解しがたい作品も少なくない。階が進み少々疲れてきた頃、ガイドさんが一歩奥へ入った踊り場へ招き寄せ、「ボロスさんが使っているエレベーターです」と言って指し示した。

ボロス・コレクションのオーナーは、アートコレクターであるほか、 広告会社を営んでいるクリスティアン・ボロス氏。彼は防空壕を改造する際、自分と家族のためのペント ハウスを屋上に建ててしまったのである。

ボロス・コレクションのアイデアとスケールには半ば呆れるほどだったが、ベルリンのアートシーンはこういう突拍子もない発想を する人物によって常に刺激を与え られているのかと感じ入った。


information

ボロス・コレクション
Sammlung Boros

内部見学はガイドツアーのみで(英独)、下記HPより事前の申し込みが必要。ただし、30分ごとに行われるツアーは、 定員が最大12人と決まっており、予約は数週間先まで一杯 ということも。所要時間は約1時間半。展示品は定期的に差し替えられており、リピーターも多いようだ。入場料は10 ユーロ(割引6ユーロ)。

住所: Bunker, Reinhardtstr. 20, 10117 Berlin
電話番号:(030)2759 4065
開館:金14:00~18:00 土日10:00~18:00
URL:www.sammlung-boros.de

総統地下壕跡
Führerbunker

ベルリンで最も有名な地下壕といえば、第2次世界大戦末期、ヒトラーの命によって総統官邸裏に造られた通称「総統地下壕」だろう。ここに籠ったヒトラーが45年4月30日に自殺するまでの過程は、映画『ヒトラー~最後の12日間~』で描かれている通り。やはり完全には破壊できず、地下部分は今も地中に眠っている。

住所:Gertrud-Kolmar-Str.とIn den Ministergärtenの2つの通りの角に案内板が立っている。