近所で楽しむジャズ

1 Februar 2019 Nr.1091
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私が住むヴィルマースドルフに「バーデンシャー・ホーフ」という古くからのジャズクラブがある。普段聴くのは圧倒的にクラシックが多いけれど、たまには生のジャズを聴きたいという気持ちはある。でも、何かきっかけがないとなかなか自分からは動かないものだ。

昨年秋、音楽家の友人を通じてドラマーの中村亮さんと知り合う機会があった。沖縄出身の亮さんはアメリカのバークリー音楽大学で学んだ後、ニューヨークや東京などで演奏や作曲の活動をした後、2015年からは拠点をベルリンに移して活動するユニークな経歴の方。彼が定期的に出演しているジャズクラブの一つにバーデンシャー・ホーフがあり、年明け最初の水曜にライブを行うと聞き、行ってみることにした。毎週水曜のライブは入場無料で、投げ銭制のため、気楽に立ち寄れるのだという。

バーデンシャー・ホーフに登場したWill Jacobs Blues Band
バーデンシャー・ホーフに登場したWill Jacobs Blues Band

クラブの名前は店の前の通り名にちなむ。外観はごく普通の集合住宅の一角で、何も知らなければ、30年以上前からここで連日ジャズのライブが行われているとは思わないだろう。店内に入ると昔ながらといった趣のカウンター席のバーがある。そのまま奥に行くと、そこが小さなライブ会場。右に行くと、テーブル席の部屋がある。右の部屋にいても音楽は聴こえてくるが、この部屋で飲む限り、飲み物代だけで済むようになっている。

21時からのライブに少し遅れて行くと、ギターとヴォーカルのヴィル・ジェイコブス率いるWill Jacobs Blues Bandが、シカゴ・ブルースを朗々と鳴り響かせていた。そして躍動する亮さんのドラム。席を取っておいてくれた知人の隣に座って、まずはビールを頼む。この店が良いのは生ビールのメニューが豊富なことで、チェコのバドワイザーやケルシュといったベルリンの居酒屋ではあまり見ない銘柄も樽で飲める。しかも、かなり安い。

そんな中で聴く生の音楽はやはり良いものだ。お客さんの年齢層は30〜60代と高めで、それがまた落ち着いた雰囲気をもたらしている。時々黒の山高帽を被って会場を行き来する年配の紳士は、この店のオーナー、ハンス=フーゴ・リークさん。カメラを持ってアーティストを撮影していることもある。彼は生粋のベルリーナーで、戦後間もない頃、ジャズのギタリストだった父親がアメリカ人の経営するバーによく出演していたことで、子ともの頃からジャズを愛好するようになったそうだ。

リークさんがこの場所でジャズバーを始めたのは、まだ壁があった1985年のこと。長い間店を続ける中では苦労もあり、90年代末には、上の階の住民からの苦情で、存続の危機を迎えたこともあったという。確かに、この夜のブルースもかなりの大音量だった。

「幸いそのとき、ベルリン市が必要な防音対策の費用を出してくれたんです。33年間で変わったのはそのぐらい。テーブルも椅子も照明も、それ以外の調度品は創業当時から何も変わっていません」

ここに来れば、ジャズを愛するオーナーとテキパキと動く女性のウエーターたちが変わらず迎えてくれる。またふらっと訪ねてみようか。

店内にはこれまで出演したジャズマンの写真が多く並ぶ
店内にはこれまで出演したジャズマンの写真が多く並ぶ

インフォメーション

バーデンシャー・ホーフ
Badenscher Hof

ヴィルマースドルフ地区の住宅街にあるジャズクラブ&レストラン。基本的には、毎週火水金土の21時からライブが行われる。予約は下記HPから可能。ドイツ料理を中心とした食事メニューも充実しており、食事をしながらライブを楽しむこともできる。U7+U9のBerliner Straße駅より徒歩5分。

オープン:月曜〜金曜16:00〜、土曜・日曜18:00〜
住所:Badensche Str. 29, 10715 Berlin
電話番号:030-8610080
URL:www.badenscher-hof.de


エー・トレーン
A-Trane

シャルロッテンブルク地区のザヴィニー広場近くにあるジャズクラブ。1992年からの歴史があり、ベテランから若手までほぼ毎夜に渡ってライブが行われる。毎週月曜は入場無料。ライブの入場料やドリンク代は、バーデンシャー・ホーフよりも全体的に高め。SバーンのSavignyplatz駅から徒歩5分。

オープン:月曜〜日曜20:00〜翌1:00
住所:Pestalozzistr. 105, 10625 Berlin
電話番号:030-3152550
URL:www.a-trane.de