ベルリン大聖堂に鳴り響いた、ウィーン・フィルのブルックナー

17 Mai 2019 Nr.1098 文・写真 中村真人

ベルリン大聖堂はドイツ最大のプロテスタント教会であり、巨大な内部空間を生かしてコンサートも頻繁に行われます。5月2日の夜、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団というとびきりの名声を持つ楽団が客演し、大きな話題を集めました。

大きなドームが印象的なベルリン大聖堂大きなドームが印象的なベルリン大聖堂

この公演は、作曲家であるアントン・ブルックナー(1824-1896)の没後200年にあたる2024年に向けて、クリスティアン・ティーレマンが指揮するウィーン・フィルが、ヨーロッパを代表する教会で彼の交響曲を1曲ずつ演奏するという並外れたプロジェクトの初回として行われたもの。2021年にはパリのノートルダム大聖堂で交響曲第5番が演奏される予定でしたが、4月15日に見舞われた大火災を受けて、当夜の公演の収益金は急遽ノートルダム大聖堂再建のため寄付されることになりました。

この夜、荘厳な雰囲気に包まれた教会の中に入ると、正面の祭壇の前にオーケストラ用の舞台が設置されていました。席に着くと、7269の音管を持つ世界最大級のパイプオルガンが目に入ります。敬虔なカトリック教徒であるブルックナーは、教会オルガニストだったことでも有名です。ベルリン大聖堂はプロテスタント教会ですが、キリスト教の教派を超えて対話と協力を目指す「エキュメニズム」の意思のしるしとして、このプロジェクトの会場の1つに選ばれたとのこと。

ティーレマン氏の長い指揮棒が振り下ろされて、交響曲第2番の演奏が始まりました。ブルックナーの音楽はこれまで数多く聴いてきましたが、さすがにコンサートホールで聴くのとは味わいがまったく異なります。神聖な空間の中に身を置くと、この音楽がいかに彼の深い信仰心から生まれたものなのか、体にすっと染み込んでくるように感じられるのです。この「第2番」は、後期作品での彼岸を思わせる響きとはまた違う、清らかな美しさにあふれ、特に慈愛に満ちた第2楽章は絶品でした。忘れ難いのは、教会特有の豊かな残響。第1楽章の最後の音が5秒以上かけて消えゆくまでを聴衆が共有する時間は、不思議な一体感がありました。

終演後に喝采を受けるティーレマンとウィーン・フィル終演後に喝采を受けるティーレマンとウィーン・フィル

このブルックナー・プロジェクトは、今年9月14日にはローマのサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂で、来年9月13日にはバルセロナのサグラダ・ファミリアで継続されることが決まっています。その後は、ミラノ大聖堂、ミュンヘンの聖ミヒャエル教会、ウィーンのシュテファン大聖堂といった名だたる教会での公演が予定され、最後はローマにあるサン・ピエトロ寺院で締めくくられることになっています。