コロナ禍になって時々気になっていたのは、街角の映画館の状況です。本誌1114号のレポートでご紹介したドイツ最古の映画館Moviementをはじめ、ベルリンにはインディペンデント系の映画館が多くあります。しかし、ほかの文化施設と同様、ドイツ全土の映画館は3月中旬から閉鎖を余儀なくされていました。
7月2日、ついにベルリン市でも映画館の営業再開が認められることに。ブランデンブルク州と並び、ドイツの中で再開が最後になった州の一つでした。ツォー駅近くの映画館Delphiでのクリスティアン・ペツォールト監督作品「Undine」の公開初日には、主演俳優らとともにシュタインマイヤー大統領も姿を表し、華やかな雰囲気に包まれたといいます。
公開中の映画「Undine」のポスター
とはいえ、コロナ時代の影響は映画館にも影を落としています。安全対策上の規約から、出入口を完全に分ける、チケット購入時には連絡先を記載、着席するまではマスク着用が義務(座ってからの飲食は可能)、座席の間は1.5メートル開ける、などのルールを徹底。チケットは事前予約が推奨され、7月と8月はオンラインで購入すると1ユーロ割引になるとのことです。
このような特殊な状況下で再開された映画館ですが、平日の夕方にDelphiに行ってみると、観客の姿はそれなりに見られ、文化生活がまた一つ戻ってきた、という実感が得られました。「Undine」は、水を司る精霊の有名な伝説に基づいた映画です。主役のウンディーネ(パウラ・ベーア。今年のベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞)はベルリン市参議会に勤める歴史家。伝説では自分を裏切った恋人を殺さなければなりませんが、彼女はその運命に抗います……。現代のベルリンが舞台になっているだけに、地元の映画ファンの関心も強いのかもしれません。
カント通りにある映画館Kant Kino
その一方で、歴史ある映画館がなくなるという悲しいニュースも飛び込んできました。プレンツラウアー・ベルク地区のシェーンハウザー・アレー駅近くにある映画館Colosseumは、この5月に破産を申請。コロナ危機後も再開は困難と報じられています。1924年、もともと路面電車の車庫だった建物を改築してオープンしたこの映画館。第二次世界大戦後は一時病院として使われ、1957年に映画館として再開しました。東独時代は映画のプレミアを上映する由緒ある映画館だっただけに、突然の別れを惜しむ声が広がっています。
シェーンハウザー通りのColosseum(2008年撮影)
映画館で観た作品は、その内容だけでなく、その映画館の雰囲気と共に自分の中に記憶されているものです。ベルリンらしい多様な映画館のシーンが失われないでほしいと強く思います。