山田耕筰のオペラ『黒船』がノイケルン・オペラで欧州初演

ベルリンのノイケルン地区にあるノイケルン・オペラは、ベルリン3大歌劇場に比べると規模はずっと小さいながらも、古典の大胆なアレンジやオリジナル作品によりピリリとした魅力を放っている劇場です。2月18日から、山田耕筰の作曲によるオペラ『黒船』がここで初上演されます。

オペラ『黒船』の公演フライヤー
オペラ『黒船』の公演フライヤーより

山田耕筰(1886〜1965)といえば、「赤とんぼ」など、数々の童謡の名作によって日本人には馴染みの深い作曲家。しかし彼が1910年代にベルリンに留学し、ドイツ・ロマン派の巨匠マックス・ブルッフに師事したことや、いくつかのオペラを書いたことは、一般的にはほとんど知られていないかもしれません。今回上演される『黒船』は、日米開戦直前の1940 年に初演された、近代日本で書かれた初めての大規模なオペラと言われています。

2月初頭、劇場近くの稽古場を訪れると、演出家の菅尾友さんらスタッフが見守る中、初の通し稽古が行われていました。このオペラは黒船来航の時代から伊豆の下田に伝わる「唐人お吉」の伝説がもとになっています。お吉は上陸したばかりの米国人領事に好意を抱くものの、お吉の恋人で浪人の吉田は、領事を暗殺するよう彼女に強要。日本の将来が関わる中、お吉は幕府と朝廷の間を揺れ動きます。そんな中で次第に愛が芽生えて……というストーリー。

稽古の様子
2月初旬に行われた稽古の様子

もともと大規模な編成のオペラですが、今回わずか3人の歌手による室内オペラとして再編。ソプラノの溝渕悠理さん(お吉)、テノールのエドウィン・コットンさん(領事)、バリトンのトビアス・ハッゲさん(吉田) は、それぞれ複数の役を演じます。物語の展開は早いですが、衣装の交換や巧みな演技により、ドラマの方向性を見失うことはありません。民謡を思わせる親しみやすさとオペラらしいドラマ性が融合した山田耕筰の音楽にも魅せられました。

「ドイツでは江戸末期から明治維新にかけての時代背景を知らない方が多いと思うので、物語を理解してもらうことをまず目標にしました。そして、自分たちの文化でないものを受け入れるのかどうかという開国の際の葛藤を、今世界が抱えている問題と重ね合わせながら描きたい」(菅尾さん)

この日私が聴いたのは音楽監督のアキ・シュミットさんによるピアノ伴奏でしたが、本公演ではアムステルダムに活動拠点を置く笙(しょう)奏者、佐藤尚美さんの演奏が加わります。これもまた大きな楽しみの一つ。激変の時代において、日本の近代を決定付けた黒船の物語がここベルリンでどう鳴り響くでしょうか。

ドイツ語のタイトルは"Rette uns, Okichi!'"(我らを助けて、お吉!)。4月15日まで全16回の上演。詳細は以下の劇場のウェブサイトにて。

ノイケルン・オペラ:neukoellneroper.de