街の歴史的映画館で映画と食のコラボイベント

5 Juli 2019 Nr.1101 文・写真 勝又 友子

6月の初め、ドレスデンのシュトリーセン地区に位置する歴史的映画館「プログラムキノ・オスト(PK Ost)」で、映画のテーマに沿ったある企画が実現しました。上映された映画は「Ramen Teh(独題:Ramen Shop、邦題:家族のレシピ、2018年)」で、日本とシンガポールを舞台にした食と家族の物語です。オリジナルの言語で上映される機会により映画を楽しめるようにと、一般の市民が日本の食も味わえるイベントのアイデアを出しました。

上映前に和風ビュッフェに並ぶ人たち 上映前に和風ビュッフェに並ぶ人たち

この映画には日本のラーメンをはじめ、随所においしそうな食事が映し出されます。見ていると食欲が沸いてくるので、目だけでなく舌でも楽しむことができたら、と上映前に料理を出すというアイデアが生まれました。映画に関わる催しをしばしば行うPK Ostはこのアイデアに二つ返事で賛成し、企画の実現へ向けて速いテンポで準備が進められました。大がかりな料理ではなく、味を少しずつ楽しむため和風のつまみを中心としたビュッフェのメニュー案を出し合い、何人かで作って持ち寄ることに。問題は当日にどれだけの人が来るのか読めないところでした。客入りにはその映画の人気や宣伝のほかに、別の催しと日程が重なっていないか、さらには天候なども影響します。

映画館PK Ost 映画館PK Ost

当日の土曜日夜、料理を並べ始めるとすぐ興味をもった人々がやってきました。事前に情報を得ていた人だけでなく、ラーメンという題名に引かれた人から、別の映画を観にきていた人まで、次々に列を作ってつまみ料理を味わっていました。おにぎりや手羽先唐揚げ、漬物にどら焼きまでそろい、上映前から食への興味がふくらみます。

持ち寄ったバラエティー豊かなおつまみ 持ち寄ったバラエティー豊かなおつまみ

PK Ostは、街の映画館として独自の存在を示してきました。プログラムキノとは芸術性や実験的価値の高い作品を選んで上映する映画館のことで、商業性の高い巨大な映画館とは一線を画します。PK Ostの建物は古く、19世紀末住宅街に建てられたダンスホールがその後映画館へと姿を変え、さらに改修工事を経て現在に至っています。5つあるホールにはそれぞれすでに取り壊されてしまった街の映画館の名前が当てられており、映画を通じた地域への愛着も感じます。また、フランス映画や短編映画といったテーマの映画祭も年に数回行われており、さまざまな視点から映画を楽しめる工夫がなされています。

今回は食という身近で人気の高いテーマだったこともあり、多くの観客が集まり、予想をはるかに超えた結果となりました。映画の世界をより広げて経験できるこうした企画が、地域に根づく映画館で行われたということが新鮮でした。

Programmkino Ost: www.programmkino-ost.de

勝又 友子
東京都出身。ドイツ、西洋美術への関心と現在も続く職人の放浪修行(Walz ヴァルツ)に衝撃を受け、2009年に渡独。ドレスデン工科大学美術史科在籍。