エルベ川沿いのぶどう畑でひと休み

5 September 2014 Nr.985 文・写真 福田陽子

ドレスデンからマイセンにかけてのエルベ川沿いの斜面にはぶどう畑が広がり、大小のワイン醸造所が点在しています。以前にもご紹介しましたが、エルベ川沿いは両岸とも最高のサイクリングロードです。ドレスデンの中心部にあるアウグスト橋から東に3kmの地点、この橋と欧州最古の鋳鉄製の橋「青い奇跡(Blaues Wunder)」のちょうど中間地点辺りの脇には、かなり急勾配の斜面が続きます。

ぶどう畑の中に見付けた、かわいらしい風景
ぶどう畑の中に見付けた、かわいらしい風景

ある週末に家族でサイクリングをしていたとき、その斜面下の石垣の狭い入口の前に大きなワイン樽とメニューらしき黒板が出ており、自転車がたくさん止まっているのを見掛けました。入ってみると、そこには石造りの壁の中に狭い階段が。そこを上ると、いきなりぶどう畑に出ます。さらに心臓破りの急斜面の階段が続いた先の中腹は、見晴らしの良い、長細いテラスになっており、テーブルと椅子が並んでいます。この店の庭に咲いている花が至るところに生けてあり、絵葉書になりそうなシーンばかり。看板メニューは、石の釜で焼くフラムクーヘンとワインです。ワインは醸造家のルッツ・ミュラー氏が手掛けているもので、ここのぶどう畑から造られています。

ぶどう畑にあるテラス
ぶどう畑の中腹にあるテラス

このぶどう畑は、アルブレヒツ城内の旧騎士の館の中にあります。ここは現在、休暇用の別荘として使用され、1660年建造の地下室はイベント用に貸し出されています。ミュラー家は長年にわたって園芸と農業に携わり、1980年代からは本格的にぶどう栽培に情熱を傾けるようになりました。ルッツ・ミュラー氏は正規のワイン醸造教育と実習を経て、両親とともにワイン造りに邁進している意欲的な気鋭の醸造家。ワインツアーやテイスティング、セミナーなどを積極的に開催して、食文化の一部としてのワインの普及活動に取り組んでいます。

焼き立てのフラムクーヘンに丹精込めて造られたワイン、それにテラスからの景色が加われば、美味しさも倍増します。エルベ川の向こうには聖母教会をはじめ、見慣れたドレスデンの景色を一望でき、川を行き来する蒸気船や、サイクリングコースを走る自転車を眺めながら、至福のひとときを堪能できます。カウンターでワインをグラスに注いでいた男性からこの店のワインを1本買ったのですが、その男性こそがミュラー氏。「そう、ここで造ったのが、このワインですよ」と語ったときの嬉しそうで誇らしげな笑顔が印象的でした。

週末、しかも晴天時のみオープンというレアな店ですが、折に触れて通ってみたいと思わせるような、魅力溢れるスポットです。

ミュラー氏のHP:
www.winzerlutzmueller.de

福田陽子さん福田陽子
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/