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「ドレスデンのケーテ・コルヴィッツ」 時代を越えたリアリズム

白黒の画面からまっすぐにこちらを見つめる作家自身の目。張りつめた緊張感とあふれんばかりの感情をからだ全体にまとった群衆――。それらが余すところなく描かれた作品からは、20世紀前半の波乱の時代が読み取れます。作者はドイツを代表する美術作家ケーテ・コルヴィッツ。彼女の平面作品が、生誕150年を記念して、現在ドレスデン城内の銅版画コレクション室で展示されています。

ケーテ・コルヴィッツ
ケーテ・コルヴィッツ《やや右向きの自画像》1890年頃

1867年ケーニヒスベルク(現在のカリーニングラード)に生まれ、1890年頃から本格的に制作活動を始めたコルヴィッツは、1897年に初めての版画連作「織工の蜂起 (Ein Weberaufstand)」を発表し、一躍脚光を浴びます。当時無名の若き女性美術家だったコルヴィッツの才能を認め、いち早く作品収集を始めたのが、ドレスデン銅版画コレクション室長のマックス・レアスでした。彼女からレアスへの手紙には、認めてもらえた喜びと感謝の気持ちが率直に記されています。それ以降、精力的に作品を創り続けるコルヴィッツの傍らには、彼女の作品を収集し続け、芸術家としての地位を築き上げる手助けをしたレアスの存在がありました。

連作「織工の蜂起」は、1893年に初演された劇作家ハウプトマンの作品「織工」に触発されて制作されました。貧しい織工員達が一斉蜂起する内容は、多くの人々が貧困にあえぐ情景を目の当たりにしていたコルヴィッツにとって、共感するテーマだったに違いありません。さらに、戦争で息子と孫を亡くした彼女は、愛する者を失う悲しみや子供を守ろうとする親の視点を一貫して表現し続けました。

第二次世界大戦中、空襲によってベルリンの自宅を破壊されたコルヴィッツは、ザクセン王の招きにより、ドレスデン近郊のモーリッツブルクへ移り住みます。彼女が晩年を一人ひっそりと過ごしたこの家は、現在保存されて展覧会やコンサートに使用されています。

ドレスデン城
展示が行われているドレスデン城

終戦の直前に亡くなったコルヴィッツ。彼女が見てきた波乱の時代は、今彼女の作品を通して見ることができます。

今回の展示では、コルヴィッツの作品に加え、オランダで活躍する女性画家マルレーネ・デュマスの作品も同時に展示されています。彼女の描く生々しいポートレートは、見る者の心をつかみ、絵を通して人間の感情をあらわに見せてくれるようです。

150年という時を経た異なる時代の二人の女性画家に共通するのは、人間と社会の中のリアリズムを描き出そうとしたことだといえるでしょう。

「Käthe Kollwitz/ Marlene Dumas in Dresden」展
※2018年1月14日まで
www.skd.museum

勝又 友子
東京都出身。ドイツ、西洋美術への関心と現在も続く職人の放浪修行(Walz ヴァルツ)に衝撃を受け、2009年に渡独。ドレスデン工科大学美術史科在籍。
 
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