「危険地帯〜ローマ帝国の犯罪」展 

2014年2月16日までフランクフルトの考古学博物館(Archäologisches Museum)で、古代ローマの犯罪をテーマにした特別展が開かれています。期間中は毎週水・日曜にガイドツアーが行われているほか、警察の協力で現職刑事が1つのテーマに沿って案内をする特別ツアーもあると聞き、私も参加してきました。

イラストレーターのブルカルト・プファイフロート氏による特別展のポスター
イラストレーターのブルカルト・プファイフロート氏が手掛けた
特別展のポスター

私が参加したのは、「ニーダの2つの殺人」と題されたツアー。考古学博物館のファゾルト博士とフランクフルト警察本部のヘアリッヒ上級刑事(Kriminaloberkommissar)が、フランクフルトで実際に起こった古代と現代の殺人について案内してくれました。

最初に見学したのは、特別展の目玉である頭蓋骨と女性の顔の彫刻の展示。ファゾルト博士の説明によると、この遺骨は古代ローマ都市ニーダ(現フランクフルト・ヘッデルンハイム地区)で1993年に発見されたもので、同じ箇所に男女2体、子ども1体の遺骨があったそうです。調査の結果、いずれも3世紀中頃の遺骨で、撲殺後に井戸に投げ込まれ、女性と子どもは母子、男性はその2人と血縁関係がないことが判明しました。今回の特別展のため、女性の頭蓋骨から顔が復元されることになり、法医学や考古学的なアプローチによって女性の顔を再現。古代ローマ時代の女性の顔が3次元で見事によみがえりました。大昔の犯罪を現在になって検証することは不可能ですが、復元された女性の顔を見ていたら、1500年以上も前に犯罪の被害者となった女性の生活や心情など、いろいろなことを考えさせられました。

続いて紹介されたのは、2001年にフランクフルトで起きた殺人事件。発見時の状況が人形によって再現されているフロアで、ヘアリッヒ刑事が事件の概要を説明した後、第1発見者の証言や実際の遺留品を、当時の警察の記録映像を通して見せてくれました。さらに、遺骨から顔を復元し、被害者を特定する実際の捜査過程を映像で紹介。被害者の身元から犯人を特定する作業、逮捕から自供までを記録した映像は、事件解決に向けた警察の努力や現代の捜査技術を詳細に映し出していました。途中、参加者からはヘアリッヒ刑事に多数の質問が寄せられていました。

このツアーでは、過去と現在の犯罪を、考古学と科学の比較という観点から見ることができました。それを踏まえて古代ローマ時代の犯罪に関する特別展を観覧すると、現在の犯罪との差がより一層際立ちます。考古学というと難しいイメージがありますが、犯罪をテーマにした古代ローマの展示は単なる遺物鑑賞にとどまらない、興味深いものでした。

考古学博物館
中世から残るカルメル会教会の建物と改築した建物を使った考古学博物館

ユゴ さや香
2003年秋より、わずか2週間の準備期間を経てドイツ生活開始。縁もゆかりもなかったこの土地で、持ち前の好奇心と身長150cmの短身を生かし、フットワークも軽くいろんなことに挑戦中。夢は日独仏英ポリグロット。