明治の日本を肌で感じる「横浜1868-1912」展

フランクフルトの実用工芸博物館(Museum Angewandte Kunst)で現在、「横浜1868-1912: 絵が輝き始めた時代」展が開催されています。フランクフルトの姉妹都市である横浜の明治時代の様子を、250点以上の写真や浮世絵から読み解く特別展です。

実用工芸博物館は米国の建築家リチャード・マイヤー氏が設計したことでも有名で、私が訪れた時も日本から建築に携わる人々が来館していました。白を基調とした明るい館内の2階に足を運ぶと、展覧会の表題がドイツ語と英語に続き日本語でも並んでいました。

1853年の開国によって、200年以上続いた鎖国が終わり、横浜港が開港して西洋文化が流入した激動の時代。当時の人々やその生活の様子を、写真や浮世絵から生き生きと見て取ることができます。古くから港町として栄えた横浜の様子を映した白黒写真には、手塗りで着色されており、100年以上前のものとは思えないほど保存状態も良く、色鮮やかです。

また「異人屋敷料理の図」「外国人衣服仕立ての図」などの木版画からは、当時珍しかった外国人への反応や興味をうかがい知ることができました。

日本語で注釈が書かれている浮世絵や当時の新聞などメディアの展示も多く、これらを読みながら作品を見ていくことでより深く展示を楽しむことができます。中でも「大日本婦人束髪(そくはつ)図解」という錦絵では、束髪と呼ばれる西洋風の髪型を提案しており、前後と横からの図と同時に「束髪結方(ゆいかた)」と題して三つ編みの説明が書かれています。日本髪だった女性たちが図解を見ながらヘアアレンジを楽しむ姿を想像して、いつの時代も変わらない女性のお洒落(しゃれ)心に親近感を覚えました。

錦絵
それまでの日本髪から一変、編んで結ぶ西洋的な束髪を紹介する錦絵

充実した展示品の中でも特に興味をそそられたのが、当時の人々の日常を写した写真です。法被(はっぴ)にハチマキ姿で店の手伝いをする少年、反物を手に品定め中の女性客と、耳に鉛筆を指して番台からそれを眺める店員、着物にたすき掛け姿で大根を切り、団扇(うちわ)片手にかまどの前に立って調理する女性たちなど、明治を生きる日本人の暮らしぶりが垣間見えます。一方で、日清・日露日清・日露戦争(それぞれ1894年、1904 年開戦)の様子を描いたプロパガンダ作品では、軍国主義化の道を進み始めた日本を目の当たりにし、その後の激動の時代を思い、立ち止まって深く考えさせられました。

当時の人々の暮らしぶり
当時の人々の暮らしぶりが手塗りで色付けされた写真で鮮やかに写し出される

長い日本の歴史の一時代としてしか知らなかった明治時代ですが、年表を追うだけでは分からない当時の人々の生活や、日常の中での変化、街の様子を鮮明に感じ取ることができました。ドイツに暮らす中で、外側からの視点を持って日本の近代史を見直す素晴らしい機会にもなりました。特別展は5月28日まで。

フランクフルト実用工芸博物館:www.museumangewandtekunst.de

ユゴ さや香
2003年秋より、わずか2週間の準備期間を経てドイツ生活開始。縁もゆかりもなかったこの土地で、持ち前の好奇心と身長150cmの短身を生かし、フットワークも軽くいろんなことに挑戦中。夢は日独仏英ポリグロット。