6年ぶりにオープンした新しい旧市街を歩く

3 August 2018 Nr.1079 文・写真 ユゴ さや香

今年5月、長年の工事を終えてフランクフルトの旧市街地区が再オープンしました。市庁舎から大聖堂へ続く一角は2012年頃から改修工事を始め、長らく閉鎖されていました。6年ぶりにフェンスが取れて通れるようになった「新しい」旧市街を散策してみました。

私が訪れた時にはまだ内装工事は終わっておらず、建物の外観しか見ることができませんでしたが、建物一つひとつが個性的で屋根やファザード、窓や格子のデザインを眺めているだけでも楽しめました。市庁舎から大聖堂へと真っすぐに続く道は、かつて神聖ローマ帝国皇帝の選定が行われる際、7人の選帝侯が選挙のために市庁舎から大聖堂へと移動した道でもあります。そうして選ばれたローマ皇帝は大聖堂で戴冠式を行った後、この道を通って市庁舎での祝賀会に向かったそうです。

そんな戴冠式の道と並行する北側の道は、今のメッセ(見本市)の原型となった場所だと言われています。この通りには数ある建物の中でも特に印象的な「Golden Lämmchen」があります。14世紀にはすでに記録に残るこの建物は、中世から20世紀にかけて、文献や絵、写真や文学の中にも登場します。現代建築法に適応させつつ再建した建物は、中庭から見上げると、白い壁に赤い窓枠、茶色いバルコニーの欄干と地上に下りる階段、黒いプレート屋根が美しいコントラストを見せてくれます。

Golden Lämmchenの中庭からの眺め
Golden Lämmchenの中庭からの眺め

その2軒隣には、ドイツを代表する文豪ゲーテの叔母ヨハンナ=メルバーが住んでいたとの記録が残る建物があります。ゲーテも自叙伝「詩と真実」の中で、実家改装中に叔母の家に身を寄せていた時、窓から見える広場のにぎやかな様子を書き残しています。将来的には「もじゃもじゃペーター博物館」がここに移転してくる予定とのことで、また当時のようにたくさんの人でにぎわいそうです。

ゲーテも記した小さな広場には、中心にフランクフルトの詩人であり作家であるフリードリヒ・シュトルツェの像を冠した噴水があります。広場の南は、ローマ皇帝が歩いた一本道へとつながり、新しい旧市街の中心地となりそうです。さらに大聖堂へと通じる角の建物は、黄金の天秤の飾りと赤茶色の色彩、金の装飾が目を引きます。こちらは地上階にカフェ、上の階は歴史博物館の別館が入る予定です。また、黄金の天秤の建物と直角にタウンハウスと呼ばれるイベントホールが建てられています。地下には「考古学の庭園」と呼ばれるローマ時代の遺跡があり、大昔のフランクフルトを物語る貴重な資料として公開されます。

きらびやかな黄金の天秤の建物と大聖堂
きらびやかな黄金の天秤の建物と大聖堂

昔のままに再建された15軒の建物と、新しく設計された20軒の建物が混在し、フランクフルトを象徴する新たな旧市街を形成していました。9月には本格的にオープン予定とのことで、フランクフルトの新たな名所として観光の目玉となりそうです。

ユゴ さや香
2003年秋より、わずか2週間の準備期間を経てドイツ生活開始。縁もゆかりもなかったこの土地で、持ち前の好奇心と身長150cmの短身を生かし、フットワークも軽くいろんなことに挑戦中。夢は日独仏英ポリグロット。