多和田葉子氏の作品、ドイツ劇場で朗読会

4 Januar 2019 Nr.1089 文・写真 井野 葉由美

ハンブルク中央駅の向かいに立つドイツ劇場(Deutsches Schauspielhaus)。同劇場専属の女優でもあるサシャ・ラウさんは「著者の部屋」というタイトルで、自身の著作の朗読会を行ってきました。去る11月27日、その第4回として、芥川賞作家で昨秋に全米図書賞を受賞したばかりの多和田葉子さんの作品を取り上げて、朗読会を行いました。多和田さんは長年ドイツ在住で、日本語だけでなくドイツ語でも著作活動を続けているため、ドイツにおいても多くのファンがいます。「著者の部屋」にゲスト作品を迎えるのは初めてだそうで、今回ラウさんは同じくドイツ劇場専属女優の原サチコさんとともに、日本語とドイツ語を自由に操る多和田作品の持つ多彩な世界を表現することに挑戦しました。

会場はドイツ劇場の最上階にあるホワイエ。用意されていた60ほどの席は瞬く間に埋まり、新しく椅子を出したり、通路に座ったり……。来場者は80%がドイツ人だったように思います。ドイツでの多和田さんの人気がうかがえました。会場には作品に関係ある小道具が随所に配置されていて、「どんな朗読会になるのかな?」と期待が高まります。

まずは初期の作品『あなたのいるところだけなにもない』から。多和田さんの日本語の詩と、ペーター・ベルトナーが訳したドイツ語とが一語一語、交互に読まれ、その後に同じ詩がもう一度、日本語とドイツ語とで同時に読まれました。音の持つ響き合いが面白く、独特の効果を醸し出していました。『エクソフォニー』(岩波書店)では、外国人の立場から見たドイツ語の不思議や面白さ、発音の難しさが紹介されています。たとえば、日本人はNeinというのが苦手だけれども、それを言うときは「NNNNeiNNNNN!!!」とNを強調しなければ伝わらない、などなど。それを原さんが身振り手振りを交えながら、大げさにやって見せるので、会場の笑いを誘っていました。福島の原発事故以降に書かれた近未来小説『献灯使』(講談社)からも一部表現を交えながら朗読されました。役者さんたちは文字を視覚に起こす作業を常にしているので、単に朗読するだけでなく、鍵となる言葉を書道で書いたり、小道具を用いたりとさまざまなアイデアが満載で、作品の持つ世界に引き込まれていきました。

寝そべりながら朗読するラウさん。作品に登場するナスが吊るされている
寝そべりながら朗読するラウさん。作品に登場するナスが吊るされている

多和田さんもゲストとして招かれており、最後には彼女を交えてのトーク、質問コーナーがあり、とても得をした気分になりました。ラウさんは、これからも「著者の部屋」を続けていきたいとのこと。次はどんな作品に出会えるのか、楽しみです。

多和田さんとともに拍手を受けるラウさんと原さん
多和田さんとともに拍手を受けるラウさんと原さん

井野 葉由美(いの はゆみ)
ハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?
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