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Sat, 20 April 2024

第147回 ウィキリークスと尖閣諸島映像流出の世界

2つの象徴的な情報流出事件

今年は、従来なら秘密にされていた情報が、内部通報者の密告、暴露によりインターネット上へ公開され、日本や世界の政府当局が震撼する事件が注目された。

中国漁船による尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船への体当たりの映像が、事態を非公開にしようとした日本政府に反発する海上保安庁職員の手でYouTubeに載せられ、公衆の知るところとなった。その後、日本政府は情報の公開を余儀なくされ、逮捕された海上保安庁職員は、国家公務員法上の守秘義務違反を問われず、不起訴の公算が強くなっている。

同様に、米国政府と在外公館との公電のやりとりという外交機密が、ウィキリークスというインターネットのウェブサイトに載せられた。ウィキリークスは、中国政府始め人権を抑圧している政府の秘密を内部告発により暴露することをそもそも目的としている組織である。その活動により、中国共産党の幹部が自国の国内総生産(GDP)統計は当てにならないと言ったとか、同党常務委員がGoogleへのサイバー攻撃を指示したとかいった公電が、世界中に知られることになった。米国政府は、米国や同盟国の安全保障に悪影響があるとして、ウィキリークスを強く非難し、ネットのプロバイダーへ圧力をかけているほか、資金などの搦(から)め手からウィキリークスという組織自体の壊滅工作を続けていると報道されている。その上で、外交官の身の安全を保証し、明らかになった秘密をもう一度再構築するために外交官を配置転換し、在外公館の引越しなどを検討するそうだ。

政府当局の対応のまずさ

しかし、日米両政府の対応は、自らの非を棚に上げているのみならず、その非自体がむしろ時代錯誤になっている。第一に情報の漏洩(ろうえい)は、情報管理の杜撰(ずさん)によるものである。その杜撰は、管理している政府側に第一次的な責任がある。その点についての積極的な反省と再発防止策の策定を早急に行う必要がある。国家公務員などによる秘密漏洩の厳罰化ということよりも、情報を知らせる範囲の妥当性、その範囲からの漏洩の追跡可能性を確実なものとすることがまずは求められる。しかし、それだけでは十分ではない。IT技術、中でもインターネットの発達は、情報が瞬時に流通することを意味している。情報を囲い込むことにより政府などが優位な立場に立ち、またそうした国民との情報格差により為政を進めることが可能な範囲が非常に小さくなっているという現状への認識が甘すぎないか。

こういう時代に必要なことは、情報の囲い込みの強化ではない。むしろ情報の積極的な開示である。確かに政府と在外公館との間の公電などは外交機密が多数含まれ、公にすると外交関係に悪影響を与えるケースが容易に想定できる。しかし、外交官でなければできない外交の範囲自体は従来よりずいぶんと小さくなっているのではないか。今では、NPOや企業の取引の中に外交的な要素が随分と入っている。まして、軍事外交や治安などと関係ない経済関係については、政府の活動で秘密とすべき分野は限られているのではないか。

政府当局、国家のなすべきこと

「WIKI」という言葉は、主体的に参加する大勢で助け合って、よりコストの安い形で、緩やかな信頼関係の下で、共同作業で情報をシェアしようとするソフトウェアのことを意味している。その仕組みは、任意の人的ネットワークが国境を越えて同時に結び付くという意味で、国家や国境概念を一部ではあるが否定する力を持つ。そうだとすれば、国家の対応策は、その逆手を取るほかない。

すなわち、情報を原則公開し、政策選択案を複数提示する。そうして国民の関心を引き、議論のための材料を提供することで、国民を政策選択過程に巻き込むことこそ、WIKIに対抗する手段として有効だ。情報を政府が公開すれば、情報漏洩、暴露という概念自体が消滅する。情報を積極的に公表し、隠しごとがないことを担保することで、受け手は安心して、確信を持って政策選択ができるので、政策に揺るぎがなくなる。いわば天日にさらして、自然に日光消毒を行うようなものだ。そしてそれが有効に行われるために、自然に政府から発信される膨大な情報を整理する業者が必要になるだろうし、本来マスコミはそういう役割を請け負っていたはずである。この方法により、一次的に情報を入手する政府自らが公開する情報を決めるという利益相反がなくなる分だけ事態は改善すると予想するが、如何だろうか。

(2010年12月9日脱稿)

 
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