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Sat, 07 December 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第10回 演じながら踊る難しさ、そして面白さ

3 March 2011 vol.1290

ドラマを踊りで表現する難しさを教えてくれたニキヤ役 ドラマを踊りで表現する難しさを教えてくれたニキヤ役
新国立劇場バレエ団公演
「ラ・バヤデール」 撮影:瀬戸秀美

1月、日本の新国立劇場にて、初役、初客演として「ラ・バヤデール」(牧阿佐美版)のニキヤ役を演じさせていただきました。

当初は、この世の人とは思えない美貌に身体、バレエの超技巧の持ち主であるロシアのスター・バレリーナが主演の予定でしたが、事情により私が代役として立つことに。正直言いまして、かなりのプレッシャーでした……。この役を踊らせていただき、バレエの中に存在するドラマの重要さ、そしてそれを表現する難しさというものを、改めて認識させられました。


この作品は古典バレエの中でもドラマの要素が強く、同じ作品でも色々なバージョンがあり、振付家、演出家によって少しずつ話の内容も変わってきます。

簡単に内容の説明をすると、ラ・バヤデールはインドの寺院で繰り広げられる恋愛をめぐる四角関係を描いた全3幕の作品です。身近にもありそうな話ですが、舞姫ニキヤ、戦士ソロル、王侯の娘ガムザッティ、大僧正ハイ・ブラーミンといった登場人物の間に繰り広げられる愛、嫉妬、裏切り、絶望などの心情変化を、踊りとともに演じなければなりません。

ニキヤとソロルは恋仲で、大僧正はニキヤに恋をしています。ソロルは王侯の娘ガムザッティと無理やり婚約させられそうになり、ニキヤがいながら、最終的にはそれを承諾してしまいます。ニキヤは自分の身分も忘れ、ガムザッティにソロルと愛を誓ったのは自分だと刃向かい、彼女を殺そうとしますが、逆に王侯とガムザッティのたくらみにより、毒蛇に噛まれてしまうのです。大僧正は解毒剤でニキヤを助けようとしますが、ソロルは彼女を助けることができません。ニキヤはそんなソロルを見て、絶望の果てに息絶えます。


ここまでで2幕になりますが、約1時間半の間にこれだけのドラマを、踊りながらどのように体で表現していくか、私にとっては新たな挑戦でした。もしこれが演劇の舞台であれば、演技にセリフがついてくるので、何を言いたいのか鮮明になりますが、一言も発することができないバレエは、身体と音楽を使って表現するしかないのです。でもそれがまた、面白いところでもあります。

セリフがない分、絶対このようにしなければならないということがなく、ちょっとした顔のかしげ方や角度、音の遅どり、早取り、などなどによって色々な意味をつくることができますが、でもそれがお客様に分かっていただけるかとなると、とても難しいのです。音楽も、指揮者の方がその日にどのようなテンポで指揮をするかによって、自分の表現や技術の達成度が左右されてしまいます。


ニキヤを亡くして悲しみに浸るソロルの幻想シーンである3幕では、あくまでも彼の幻想の中にいるニキヤであり、生身の人間ではなくなるので、そこでも踊りの解釈に悩まされました。最後は、神の怒りに触れ、寺院崩壊で重傷を負ったソロルが、天に昇って行くニキヤの幻想を見ながら追いつこうとしたところで息を引き取ってしまう。そしてニキヤは振り向かない……という形で終わります。

今回のバージョンの振付/ 演出家の牧阿佐美先生は、女性を裏切った男性は許されるべきではないということで、お客様に考えさせる何とも深い結末を用意されました。これは2幕の結末でニキヤを見捨ててしまったソロルへの、彼女なりの仕返しなのでしょうか?

 

小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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