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野鳥とともにマインドフルネス
先日、私のポッドキャスト番組でインタビューを収録しているとき、ゲストの方の後で鳥の歌声が聞こえてきました。どうやらその英国在住のアーティストの方のスタジオ周辺には、たくさんの鳥たちがやってくるようです。編集のときに背景の音を消すことも可能ですが、あえてそれはせず、鳥の声をバックにしたままインタビューを配信しました。鳥のさえずり入りなのは、いかにも英国らしくてすてきだと感じたからです。
我が家でも、毎日庭にハトやブラックバード、時にはロビンがやってきます。また、昨年は庭の巣箱にブルーティッツが卵を産みました。ひなに親鳥が何度も何度も何度も餌を運んでくるのに気づき、しばらく様子を見守っていたら、偶然にもひな鳥たちが巣箱から巣立つ日を目撃。数時間目が離せませんでした。
こんな経験は、英国に暮らしている方には珍しくないことかもしれません。なぜなら英国の人々と野鳥は密接な間柄にあるからです。一般紙「ガーディアン」によれば、自宅にバード・テーブルやバード・フィーダーと呼ばれる鳥のエサ台やエサ箱を置いている家庭は半数にも上るといいます。また英国内最大の自然保護チャリティー団体RSPB(英国王立鳥類保護協会)は1889年に発足。会員数は120万人を超えています。特にこの団体では、1979年以来、毎年冬になると「ビッグ・ガーデン・バードウォッチ」というキャンペーンを行っています。世界最大の野生動物の調査といわれるこのキャンペーンは、一般の人々が家庭の庭や近所の公園などでバードウォッチングを行うことで成立するもの。日本にいたときには、知人の中にバードウォッチングを趣味にしている人はいたものの、ここまで大規模に市民たちが鳥を観察しているということはなかったので、英国の人がこんなにも野鳥に関心を持っているということに驚きました。
我が家でも子どもたちが幼いころは、毎年、野鳥の餌で作ったバード・ケーキを庭の木に吊るして、ビッグ・ガーデン・バードウォッチの日に庭にやってくる野鳥の数を数えた思い出があります。そして今もこうして、毎日、庭や散歩に出かけたときに野鳥の声を聞くと、「緑と野鳥の多い英国はいいなー」とほっとする自分がいます。
実際、キングス・カレッジ・ロンドンの研究によれば、鳥を見たり、その鳴き声を聞いた後の幸福感は最長8時間持続し、人間のうつ傾向を軽減するという関連性が確認されたといいます。そして、野鳥とともに過ごすことは、メンタルヘルス、ウェルビーイングに良い影響をもたらすといえるのだそうです。そのせいかどうか、野鳥を身近に感じることは、私にとって英国暮らしの喜びの一つになっているのは間違いありません。