ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Tue, 15 October 2024

第40回 「できない」とあきらめますか。

この号が発行されるころには、ノルウェーのオスロで、クラスター爆弾禁止条約の署名式が行われているはずだ。対人地雷とか、クラスター爆弾とか、そんな兵器を国際条約で全面禁止にすることなど、少し前までは不可能だと思われてきた。しかし、そう思い込んでいるアタマこそが、相当に古びているらしい。

クラスター爆弾とは、数百個から2000個ほどの小さな爆弾(子爆弾)を収納した親爆弾を目標の上空で爆発させて子爆弾を広範囲にばらまき、それらが着弾した際にいっせいに爆発させる兵器を指す。子爆弾の何割かは不発弾として残り、戦闘行為の終了後も一般市民に多大な被害を与えてきた。その製造・運搬・配備・使用などの一切を禁じるのが、この条約である。大量保有する米国やロシア、中国などは参加しないものの、日本、英国、ドイツなど100カ国以上が賛同している。

クラスター爆弾禁止条約は2007年から、大国抜きで条約づくりの作業が始まった。国連など既存の国際機関も動かない中、ノルウェーやベルギーなど中小の「有志国」と、国際的な非政府組織(NGO)が目標に向かって動き始め、賛同国を増やし、ついに条約締結までこぎ着けた。そのプロセスは対人地雷禁止条約(オタワ条約、1997年)と非常に似通っている。

クラスター爆弾禁止条約を推進してきたNGOの連合体「Cluster Munitions Coalition」の事務所は、ロンドン中心部からテムズ川を南に渡ったところにある。81カ国、約270団体の取りまとめ役はトーマス・ナッシュさん(29)。若く、快活で、言葉は自信にあふれていた。

「この条約の重要なところは、クラスター爆弾の一掃、つまり製造や貯蔵、使用の禁止から、在庫破棄、被害者救済や国際協力まで、とても多くの事柄を義務として盛り込んだことにあります。日本や英国が当初はこの条約に強く反対していたことを考えると、本当に信じ難いことですが」

「なぜ、僕たちがこれほど影響力を持ったか?それは、僕たちが議論を重ねてきたからだと思います。仮に、あなたが英国政府の中で意思決定権を持っているとしましょう。それに対し、僕は、市民社会を代表している。そして双方が議論し、いろんな場面で、僕が議論に勝った。議論を続け、正しいと思ったことのために闘い続け、そして相手を打ち負かした。それが力なんです」

でも、条約には米国やロシア、中国などクラスター爆弾の大量保有国が参加していない。

「米国やロシア、中国などの国々を変えることは非常に難しい。僕たちが『良い』と思う方向へと変えることは、さらに困難です。例えば、米国では多くの国民が反対しているのに、イラク戦争はまだ終わっていません。中国の人権侵害は、事実確認すら難しい。たぶん、ロシアはもっとひどい。そんなとき、どうするか、です。『何もできません』とあきらめますか。そうではないはずです。彼ら以外の世界各国と市民が手を取り合い、彼らにモノを言っていく。それが変化を作っていくんです。良い変化を求めて、そして、それを信じている国や企業、個人が一緒になって動く。そうすれば、変えることは必ずできるはずなんです」

ナッシュさんもそうだが、この種のキャンペーンを担う欧州の人たちは、本当に若い。そういう若い人の真っすぐな言説を聞いていると、「キミ、国際社会は弱肉強食だ。そんな理想論では……」という、したり顔が気恥ずかしくなる。

それにしても、国家や世界を相手に、長い間、反兵器活動に取り組んできて、絶望を感じたことはないのだろうか。

「ありません。全くありません。むしろ逆ですね。ニュージーランドで生まれて、幸運にも大学へ行き、素晴らしい教育を受け、考える時間があった。そして、不正や不公平の是正に取り組みたいと思ったし、現に、それを全うできる立場にいることを光栄に思うのです。社会に何か問題があればあるほど、それを正したいと思うのです」

どこまでも前向きな彼は、最後にこんな言葉を口にした。

「If you have an opportunity in your life to do something that can make difference, you're very lucky and you should take that opportunity with two hands」

 

高田 昌幸:北海道新聞ロンドン駐在記者。1960年、高知県生まれ。86年、北海道新聞入社。2004年、北海道警察の裏金問題を追及した報道の取材班代表として、新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。
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