Yutaka
Tue, 19 October 2021

インタビュー No.2
地震をさまざまな角度から考察できる作品を

ヴィジュアル・アーティスト / ルーク・ジェラム氏

続いてインタビューしたのは、英国を代表するヴィジュアル・アーティスト、ルーク・ジェラム氏。同氏はこれまで大規模なインスタレーションから繊細なガラス彫刻まで、多様な手法を用いてきた。 その情熱は作品作りにとどまらず、あるときは大学で教鞭を執り、またあるときは知覚表現についての研究結果をまとめた書籍を刊行するなど、多岐にわたるものだ。東日本大震災の地震の波形データを用いて表現した作品「Tōhoku Japanese Earthquake」に、同氏はどんな思いを込めたのだろうか。

Luke JerramLuke Jerram

1974年生まれ。彫刻、ライブ・アート、インスタレーションなど多岐にわたる表現方法で、国際的に活躍する英西部ブリストル在住のヴィジュアル・アーティスト。代表的な作品の一つに「ミュージアム・オブ・ザ・ムーン」(「Museum of the Moon」)が挙げられる。NASAの月面画像を用いた直径約7メートルの球体を屋内、屋外で吊るし幻想的な空間を世界各地で創る作品で、英国ではグラストンベリー・フェスティバルやロンドン自然史博物館などで展示された。日本では東京の公共スペースにピアノを配置し、他者と音楽を共有する「プレイ・ミー、アイム・ユアーズ」(「Play Me, I’m Yours」)を行った。
www.lukejerram.com

アート作品
「Tōhoku Japanese Earthquake」

東日本大震災の強震波形データを、ラピッドプロトタイピングを用いて3Dプリントした彫刻作品。縦20センチメートル 、横30センチメートルのなかに、約9分間計測した地震の揺れを立体的に表現している。初公開はロンドンのアート・ベニュー、ジャーウッド・スペース(Jerwood Space)で開催されたエキシビション「テラ」(TERRA 2011年11月9日~12月11日)。その後、米国、フランス、中国など世界各地をまわり、現在は米ノックスヴィル美術館に収蔵。同作品はガラス製も作られ、こちらは米ニューヨークのヘラー・ギャラリー(Heller Gallery)にて展示された。

Tōhoku Japanese Earthquake

東日本大震災のニュースを聞いたときのことを覚えていますか。どのようにこの災害を知りましたか。

世界中の多くの人が知ったのと同じように、テレビの報道を通して知りました。目にしたのは海の近くの公衆電話から撮影された映像で、津波が陸地に押し寄せてくる様子が映されていました。とてもショッキングな光景で、目を覆いたくなるほどに恐ろしい映像でした。

この震災から作品「Tōhoku Japanese Earthquake」を作るに至った経緯について教えてください。

当時、私は2004~12年のニューヨーク証券取引所と、1980~2012年のダウ平均株価のデータを元にした作品「ストック・エクスチェンジ・アートワークス」(「Stock Exchange Artworks」2012年)に取り組んでいる最中でした。これは平面的であるグラフ・データを回転させることで、起伏のある円柱状のガラス彫刻に結晶化させるというもので、私たちがメディアで触れる無機質な数値やその背後に隠された意味を、より深く理解しようとする試みです。この時期は、このようなグラフの新しい見方やその体験方法を新たに生み出すことに興味がありました。

また、かねてからシリーズものとしてウイルスやバクテリアの形状を表現した一連のガラス彫刻「グラス・マイクロバイオロジー」(「Glass Microbiology」2004年~)を制作していました。透明な見た目で美しいものの、そのテーマだけにゾワゾワと人を不快にさせる何かがある。地震の彫刻も、オブジェ自体の美しさ、シンプルさと、それらが表す事実の間には、独特の緊張関係が存在しています。

グラス・マイクロバイオロジー」の一環で、パンデミックと戦う科学的、医学的な努力に敬意を示し、制作されたガラス彫刻作品「COVID-19」「グラス・マイクロバイオロジー」の一環で、パンデミックと戦う科学的、医学的な努力に敬意を示し、制作されたガラス彫刻作品「COVID-19」

日本人は地震の強震波形データを目にする機会が比較的多くありますが、これを3D化する、という発想はなかったように思われます。3Dプリントしようと思ったのはなぜなのでしょうか。

ニュースの映像で見た言葉にできない惨状と、地震計が吐き出した無機質なデータには感覚的な隔たりがあるように思われます。立体作品を作ることで、人々がほかの方法でこの災害を捉える価値があるのではないかと思いました。地震計のデータを統合し、なんとかして命を与える方法が欲しかったのです。

そこで鑑賞者がさまざまな角度から地震のことを考え、数値を眺めることができる9分間の揺れを記録したデータを含むオブジェを作りました。

CADデータを用い、3DでプリントするCADデータを用い、3Dでプリントする

なぜラピッドプロトタイピング*を使おうと思ったのでしょうか。

ラピッドプロトタイピングは当時の最新技術であり、その可能性を探ることに興味がありました。作品を3Dプリントで出力するのが最も簡単な方法だったので、使ってみることにしました。

* 3Dテクノロジーを活用して迅速(rapid)に製品の試作品を作成する方法。設計図だけでは見抜けない構造状の問題点を浮きぼりにし、開発プロセスを短縮させる方法として用いられている

使用した強震波形データの画像はどのように手に入れたのでしょうか。

言葉の壁があり、正確な出典先を自力で見つけることは難しかったため、地震に関するテレビの報道ニュースから入手しました。

この強震波形データを元に作品が作られた(出典不明)この強震波形データを元に作品が作られた(出典不明)

制作にあたって苦労したことはありましたか。

プリンター自体がとても小さかったため、作品を二つに分けて制作する必要がありました。幸いにも、それ以外は特に大きな問題はありませんでした。

作った直後のご自身の感想や周りの反応について教えてください。また、10年が経過し、改めて作品に対して思うことはありますか。

作品の仕上がりも、オンライン上での肯定的な反応も満足のいくものでした。今後、私たちに提示されているただの波形データの代替表現として、この作品を見ることが一般の人々にとって有益な意味を持ち続けていることを、心から願っています。

ジェラムさんの作品は自然現象や社会問題、また新型コロナウイルスのように社会と人がテーマの作品作りが多いように感じます。なぜ、そのようなテーマを選ぶのでしょうか。また、今後新たに取り組みたいテーマやイメージがあれば教えてください。

アーティストは自分たちの作品を通じて社会の変化に反応を示すことが多々あります。私の作品はそういった要素が強いものもあれば、そうでないものもあったりとまちまちですね。個人的には、物事を別の視点から見てみようと呼び掛けることに興味があります。それで真実が明らかになることもありますからね。

最近では、先に述べた「グラス・マイクロバイオロジー」シリーズの一環で、製薬会社アストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発した新型コロナウイルス・ワクチンの接種1000万回を記念し、ガラス彫刻「オックスフォード−アストラゼネカ・ワクチン」(「Oxford-AstraZeneca Vaccine」2021年)を新たに作りました。試験管や蒸留器など、医療の現場で使用されているホウケイ酸ガラスを用いた作品で、こちらも美しい仕上がりでとても気に入っています。この作品の収益は、新型コロナウイルスの影響を大きく受けているコミュニティーを支援するため、国境なき医師団に全額寄付される予定です。人々がこの作品を見ることで、予防接種に行くきっかけになることを願っています。

ジェラム氏の最新作「オックスフォード−アストラゼネカ・ワクチン」。
直径34センチメートルで、実際のナノ粒子の100万倍サイズに当たるジェラム氏の最新作「オックスフォード−アストラゼネカ・ワクチン」。直径34センチメートルで、実際のナノ粒子の100万倍サイズに当たる

 

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